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民医連新聞

民医連新聞

水俣病大検診 9月20~21日 隠された被害 掘り起こそう 重い症状 まだまだある

 「毎朝四時には、手が痛くて目が覚める。ぎゅっと握ってがまんします」。水俣病公式発見から五三年。不知火(しらぬい)海沿岸に は、手足のしびれや麻痺、こむらがえりなどの症状に苦しむ人が多くいます。ところが、自民、公明、民主の各党は七月、被害者の抗議に耳を貸さず、加害企業 「チッソ」を救済する「水俣病特措法」を成立させました。「被害者を切り捨てさせない」という患者団体の要請を受け、九月二〇~二一日に地元の医師らとと もに不知火海沿岸大検診(一〇〇〇人規模、二〇会場)を行います。(丸山聡子記者)

樋島(ひのしま)の出張検診で

 水俣市は、三方を山に囲まれ、一方を不知火海に面しています。対岸に天草諸島も望める美しい海に、チッソは三六年間、有毒な有機水銀を流し続けました。
 熊本県民医連は七月五日、天草諸島の樋島で出張検診を行いました。この島での検診は初めてです。必要な機材を船で運び、にわか診察室を準備しました。
 検診には同県連の医師一四人と看護師一八人、ほか二五人が参加。受診した五七人のうち、五〇人を水俣病と診断しました。
 中学卒業と同時に漁に出たという男性(71)は、手足のしびれやふらつきを訴えます。目を閉じた状態では自分の指を素早く鼻まで持ってくることができ ず、痛覚針で指や口周辺を突いても、「チクチクする」程度の感覚しかありません。水俣病にみられる運動失調や感覚障害です。
 男性は五〇代のころから、船でつまずくなどの感覚の異常を自覚していました。「三人の子どもがおったけん、水俣病と知れたら結婚させられんち思うて、言 われんかったです。みんな結婚したから、申請しようと思うたです」
 「子どもが結婚できない」「魚が売れなくなる」という不安、「補償金目当てのニセ患者」という差別や偏見…。住民の多くに症状があるため、「これが当たり前で、自分が水俣病とは思わなかった」という人も多いのです。
 長年診察してきた協立クリニック(水俣市)院長の高岡滋医師は、樋島で検診を呼びかけてきた住民たちに言いました。「重い症状があることに驚いた。水俣 病は国とチッソによって隠され、医学からも見放されてきた。行政が健康調査をしないなかで、ぜひ私たちの検診を受けてほしい。みなさんの苦しみが、なかっ たものにされてしまう」。
 七〇代の男性は語りました。米のとれない貧しい島で主食はイモと魚だったこと、麦が八割の飯に雑魚を混ぜたものがご馳走で何杯も食べたこと、「魚が売れ なくなる。島から水俣病を出すな」と宣伝して歩いたこと、今になって大変なことをしたと頭を下げて回っていること…。「水俣協立病院を信頼しています。検 診を受けるようみんなに話します」。

共通診断書を力に

 国は、複数の症状がなければ「水俣病」と認めないなど、認定基準を狭くとらえた一九七七年の 「判断基準」に固執し、被害者に背を向けてきました。これに対し、高岡医師や藤野糺(ただし)医師(水俣協立病院名誉院長)、熊本学園大学の原田正純教授 らは一万人超を診察し、多様な病像を明らかにしてきました。それに基づいてつくられたのが「共通診断書」です。
 ところが、環境省の原徳寿・環境保健部長は「共通診断書は信用できない」「受診者がうそをついても、見抜けない」と朝日新聞の記事で発言。患者、医師か ら「被害者を『ニセ患者』のように言う暴言だ」と抗議があがっています。原田、藤野、高岡の三医師は記者会見を開き、発言の撤回と謝罪を求めました。しか し、原部長は七月二五日水俣市で、患者団体に謝罪はしても「発言は撤回しない」と語り、反発が広がっています。
 長年にわたって被害者を切り捨ててきた国の姿勢は変わっていません。共通診断書に基づいた大検診が重要です。
 高岡医師は、「共通診断書は被害の動かぬ証拠。世界的にも水銀汚染が問題になり、私たちのデータは必要とされている。大検診が注目されている」として、検診への支援を呼びかけています。

※ 実行委員会はカンパも募っています。お問い合わせは熊本県民医連まで。〇九六(三八七)二八二六

(民医連新聞 第1457号 2009年8月3日)