フォーカス 私たちの実践 “疥癬(かいせん)対策”2カ月半の教訓 大阪・耳原総合病院 感染の兆候は皮膚症状に 見のがさず、接触防ぎ、す早く治療
急性期内科病棟(四六床)で初めて、ノルウェー疥癬(角化型疥癬)が発生し、病棟あげて対策を実施した耳原総合病院(二〇〇七年)。その教訓を第九回看護・介護活動研究交流集会で、看護師の渡辺未世さんが報告しました。
全員の皮膚症状をチェック
疥癬の院内感染はリスクが多大です。その経過と教訓は今後に役立つと考えます。当院では感染予防を最重要の課題にしています。しかし結果的に、角化型疥癬と診断された時点から対策を実施することになりました。
この患者(七〇代女性)は誤嚥性肺炎で他院から六月末に転院して来ました。八月下旬に症状が悪化し個室に移動、九月下旬に皮膚の乾燥、落屑がひどくな り、皮膚科を受診。角化型疥癬の診断を受けたのが一〇月一日でした(患者は主病のため一週間後に死亡)。
直ちに感染制御チーム(ICT)に連絡、院内の「疥癬対策委員会」が立ち上がりました。まず、当該病棟の患者・スタッフ全員の皮膚を観察し、症状を チェックし、疑わしい場合は皮膚科を受診しました。その数は入院患者二六人、スタッフ一四人でした。
退院患者を一カ月さかのぼる
同時に、患者・家族へ文書で情報を伝え、協力を依頼しました。「発疹の出ている患者様・ご家族 へ」の文書では、病室への出入りの際、長袖エプロンや手袋の装着をお願いし、洗濯の方法なども記載しました。「湿疹・水疱をともなう痛みのある方はいませ んか」という文書では、経過を報告し、予防や治療について説明、異常のある人に申し出てもらいました。
進入経路を探ることはほとんど不可能です。接触による二次感染の防止を重点に強化し、当該病棟への入院を一時止めました。
さらに、疥癬の潜伏期間は一カ月といわれます。そこで一カ月前にさかのぼって、当該病棟から退院・転院した患者六五人に連絡し、症状の有無を確認しまし た。症状のある人は六人いて、老健施設から一人が再入院、三人は入所中の施設で対応、在宅の二人には皮膚科受診をお願いしました。
症状あれば治療対象
疥癬で確定診断ができるのは三〇%といわれます。皮膚科を受診した患者二六人のうち顕微鏡で虫 体を確認できたのは一人でした。そのため、有症状者は全員を治療の対象にしました。当院では、一昨年に慢性期病棟で疥癬が発生したことがあり、疥癬対応マ ニュアルを備えています。その経験から速やかに、γBHC軟膏、オイラックス軟膏、ストロメクトール内服を単独、または組み合わせて使用しました。なお、 職員は労災で対応しました。
γBHC軟膏の使用法は、全身に塗布し、六時間後にシャワーで洗い流します。一週間空けて二回目を行います。患者がシャワーを浴びている間に、病室を掃 除し、寝具マットレスを交換し、七〇%イソプロパノールで周辺を拭き取りました。これは他部門の協力を得て実施しました。こうして全員の症状が消え、終息 宣言するまでに二カ月半かかりました。
突然の疥癬の発生は、入院制限など大きな問題を引き起こします。職員の不安や負担なども多大です。一番の教訓は、早期発見と早期治療など素早い対応の重 要性です。さらに、感染の兆候の皮膚症状を見逃さないことが大切です。
(民医連新聞 第1454号 2009年6月15日)