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民医連新聞

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“一日派遣村”から 生活保護集団申請81人 準備3ヵ月、連帯ひろげ奮闘 福岡民医連

 「一日派遣村」が各地でとりくまれています。福岡民医連などが後援した「なくそう貧困! 福岡県民実行委員会」は三月一日、「い のちとくらしの相談会」を福岡市で開催。ボランティア三五〇人が、朝・昼計五〇〇人分の炊き出しと、のべ二一三件の相談を受けました。うち八一人が、翌日 からの数日間で生活保護を申請し、全員が受理されました。(小林裕子記者)

放置される高血圧、糖尿病

「自分が悪いわけじゃないのに…」

 午前一〇時。朝食を待つ行列。受付で渡された食事券と相談票を握りしめ、俯(うつむ)きがちに並ぶ人びと。混み合う労働・法律、生活、医療の相談机の前で話を聴きました。
 昨年一二月から路上生活する五〇代の男性。勤めていた大阪の会社が社員を解雇したあと倒産。生まれ育った福岡に戻り職探しをしています。「一番困ってる ことは?」「血圧が高い。栄養も摂れないし、いつプツンといくか…」。
 路上生活は三年という五〇代男性。技術職のベテランでしたが会社の都合で事務職に変わり、やっと実績を認められたころ会社が業績不振になり、解雇。「一〇kgやせた」。
 二人は、もと会社員らしい落ち着いた話しぶり。「まさか、こんなことに…」「自分が悪いなら納得いくだろうが…」の言葉に悔しさ、理不尽との思いがあふれていました。
 若者もいました。大分キヤノンを解雇され、故郷の福岡に戻った三〇代男性。「失業保険が切れるまでに仕事が見つかるか」と不安気でした。別の若者は家賃 が払えなくなり、手荷物だけ持って路上暮らしに。もう五~六年路上生活しているという四〇代男性もいました。
 彼らの生活は…。「手配師から仕事をもらえれば時給七五〇~八〇〇円で働く。三時間くらいのときや、ない日も。資材搬入など力仕事が多く、食べない身体 ではつらい。半額になった弁当を買う。路上は寒く、ネットカフェも騒がしくて眠れない。曜日ごとに教会やNPOの炊き出しを頼って歩く…」というもの。

保険証も金もない 血圧高く歯がボロボロ

 医療相談に来た人は八〇人。
 「ほとんどの人は血圧が高い。糖尿病を放置している人も多い」と山田智医師(みさき病院長)。六〇代の男性は日雇いを断られないよう、若い人から自動血圧計の結果紙をもらい、ごまかして働いていました。
 七〇代の男性は、血圧が上が二三〇で下が一二〇、高血圧脳症の診断でその場から救急搬送に。「おそらく食べていない。脱水もあってふらふらだった…」と山田医師。
 「歯がボロボロの人ばかり。よく噛めない状態だと思う」と小南俊美歯科医師(たちばな診療所)。保険証も所持金もないという人に「生活保護を受けて治療をしよう」と説得を続けていました。
 「路上生活者の三割ほどに軽い知的あるいは精神障害がある」と指摘するのは呼びかけ人のひとり小宮豊医師。駅前で開業する精神科医です。「仕事が長続き しないのは障害のせいだろう。障害者雇用枠での就労支援が必要」と。小宮医師は、教会などで路上生活者の診療を続けて八年。いま月に六回行っています。そ の経験から「ホームレスを差別する病院が多いので、差別しない千鳥橋病院に紹介状を書くことが多い」と話しました。
 この日も医師たちは、同院に宛てた紹介状をたくさん書いていました。明日の混雑を心配しながら。

実行委員会ひろがる

 福岡民医連は、県内にある多様な団体に呼びかけ、マスコミにも発信しました。ホームレス支援に とりくむ医師や弁護士、NPO、牧師など六人が呼びかけ人になり、約二〇の協賛団体、個人一〇〇人余の実行委員会をつくりました。新聞、ラジオなどが取り 上げ、市民ボランティアの申し出が五〇人を超え、当日直接来た人も八五人。司法書士など専門職もいます。
 実行委員会は福岡市に要望書を出し、会場の公園使用料をタダに、生活保護の集団申請に対応するよう求めました。当日は、電話相談も受け付けました。
 炊き出し担当は「おにぎりの会」。炊き出し支援の団体で、何食作ればいいか、だいたいわかっています。
 福岡民医連は事務局を担い、熊谷芳夫県連会長をはじめ医師や歯科医師、看職師など多職種が参加し、一〇〇人を超えました。健康友の会員も駆けつけました。

なんとしても住居を

無料や低家賃の公営住宅があれば…

 翌日の博多区役所。特別体制という約束どおり、各区からケースワーカーを集め受付机が七つ用意されていました。
 市職員の説明では「申請書を出して二週間~一カ月で決定。住宅が確保できたあと決定したい。今日所持金がない人には、生活支援金一万円を貸し付け、決定後に保護費から返却」という流れです。
 「住宅の確保に市は普段タッチしないが…」と市職員。宅建協会の空き部屋情報のファイルを「特別に用意した」と言います。「公営住宅は?」と聞くと「空 きがない」。「ここは保護課なので…」と口を濁しながら、担当者は「国も含めた住宅支援策があれば、保護に至らないで済むとは思う…」と。
 定職に就くには住居の確保が絶対に必要です。申請者もこれを切実に願っていました。「部屋が決まって就職できたら生活保護はもういいんです」(二〇代男性)。

実行委員会の力

 実行委員から市のやり方に異議が出ました。「保証人が必要な物件をただ紹介したのでは、入居に至らず、生活保護の受給自体をあきらめさせる結果にならないか?」と。
 申請者に保証人はいません。保証協会に払う料金は保護費から出ることを、きちんと説明しているか?
 そこに、共産党の市議会議員が「知り合いの不動産会社がホームレス可と言っている」という情報をもってきました。すぐ福岡労連の車で申請者四人が下見に行くことに。
 多くの路上生活者は、何度か市役所に相談に行っています。しかし、「住宅の確保」でつまずくのが実態。今回、保証協会の審査をパスするために、福岡民医 連の塩塚啓史事務局長が緊急連絡先になったケースも多数ありました。司法書士の大部孝さん(ボランティア)は、「本来は行政の責任だ。民間にやらせる姿勢 が問題。だが放っておけないので、情報を流して良心的な家主の協力などを求めなくては」と話しました。実行委員は申請者一人ひとりにつきそい、励ましまし た。
 住居の確保、仕事探し、路上からの脱却は簡単ではなく、路上生活者は増え続けています。塩塚事務局長は「その後も相談が続き、深刻な事態だ。共同をひろ げ、行政の対応を変えたい」と話します。続いて北九州市でも実施する予定です。

(民医連新聞 第1448号 2009年3月16日)