フォーカス 私たちの実践 持続皮下注射を試みて 帯広病院(北海道)病棟看護部 針刺す苦痛なくなり穏やかだった最期の2カ月
第九回看護介護活動研究交流集会で報告された、ターミナル期での持続皮下注射の活用例です。
当院では、ターミナル期で入院した患者に、苦痛緩和と栄養・水分補給の最善の方法を検討し、持続皮下注射法を初めて試み、評価する機会を得ました。
Aさん(九〇代・女性)は、閉塞性動脈硬化症、心筋梗塞、脳梗塞の後遺症で、両足の壊疽(えそ)でした。しかし、切除は不適応と診断され、予後は厳しい状態でした。
また重度の認知症のため、食べることが難しく、栄養摂取が十分できません。しかも、末梢血管の確保が困難で、看護師が二人がかりで抑え、針を何度も刺入 することがありました。Aさんはそのたびに苦痛を訴えました。またAさんは「不快」に対する抵抗感が強く、病衣やオムツを破ったり、点滴の針を自己抜去す るなど、危険もありました。
家族の気持ちも尊重して
入院直後のインフォームド・コンセント(IC)で家族は、中心静脈カテーテルの挿入について、「足は腐っていくのにカロリーを入れて上半身だけ元気でいるのは、かわいそう」という思いを話していました。
一方で、Aさんからは「桜が見たい」「明日は私の誕生日」などの言葉が聞かれ、私たちは、何かよい方法はないかと考えました。
持続皮下注射については、診療報酬上の設定もなく、本人の同意がない中で施行するのはどうか、と検討だけに留まっていました。しかし、次のICで提案し てみると、家族は「何もしないのはつらい。そういう方法があるならやってほしい」という返事でした。
経験ある病院から学ぶ
初めての持続皮下注射です。経験や十分な知識をもつスタッフはいません。そこで、手技や安全性 について、チームで文献を調べ、実践経験のある苫小牧病院(北海道勤医協)に問い合わせました。また本当にAさんにとって最善の方法なのか、再度、医師・ チーム・家族で話し合い、確認しました。
一日目は、腹部の留置針から生食五〇〇mlを六時間かけて注入。二日目からは五%グルコース五〇〇mlに変更、その後、一週間続けました。その間、痛みの訴えや腹部のトラブルもありませんでした。
皮下からの補液量は、静脈補液の半分以下になりましたが、循環動態や意識レベルに変化なく過ごしました。手技上の問題も生じませんでした。また、持続皮 下注射を開始してから、Aさんは介護を拒否することが次第に少なくなりました。これは、血管に針を刺す苦痛がなくなった影響もあり、QOLが良くなったた めと考えられます。
水分・栄養補給法として
Aさんは二カ月後に永眠しましたが、その間は病室にはいつも好きな花を飾り、家族といっしょに散歩することもできました。
お悔やみ訪問やデスカンファレンスの際、家族は「悔いは残っていない。皮下注射をやっていただいて良かった」と話してくれました。
Aさんのように末梢静脈からの補液が困難な場合や、中心静脈カテーテルが不適当である場合に、持続皮下注射は水分や栄養の補給に有効であり、苦痛の緩和 の手段になると言えます。ターミナル期の治療法を決定するにあたって、医師・チーム・家族間でのコミュニケーションが重要であることも再確認しました。私 たちはAさんのケースを今後の看護に生かせると実感しています。
(民医連新聞 第1445号 2009年2月2日)
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