STOP! 介護崩壊 3%じゃ とても足りない! 2009年 介護報酬改定の問題点
〇九年四月実施の介護報酬改定の概要が発表されました。今回初めてのプラス改定。私たちの運動の成果です。しかし制度開始以来、 五%近くのマイナス改定で、「介護崩壊」が起きている現状からみると、三%程度では抜本的打開にはなりません。さらなる引き上げや見直しが必要です。
介護報酬は、介護保険制度が二〇〇〇年に始まってから、改定のたびに引き下げられ、合わせて四・七%のマイナスでした。
介護現場からの人材流出が止まらず、介護職をめざす人も激減。閉鎖する事業所も多く、介護の危機を生みました。制度改善を求める世論や運動を、政府も無視できず、初めてプラス改定となりました。
舛添厚労大臣は「賃金二万円アップできるような改定」と発言しました。しかし、たった三%では二万円アップどころではありません。
基本の報酬は引き上げず、 加算ばかり
今改定は、基本の報酬部分はほとんど上がりません。さまざまな加算部分の見直しや新設を中心にアップしたのが特徴です。新たに四〇を超える加算がつくられました。また、地域差を調整するための地域区分の見直しや中山間地の小規模事業所への加算がつきました。
加算の特徴の一つは、職員のキャリアに着目した点です。介護福祉士や常勤職員の配置割合や、勤続年数によって報酬に差が出るしくみになっています。
そのほか、医療との連携、認知症ケアの充実などに関する加算が増えています。
加算中心の改定には問題が
加算中心の改定では、算定できるところとできないところで、事業所の差別化や選別化がすすむ恐れがあります。今改定は大きな事業所の方が算定上、有利に設定されているため、小規模の事業所が淘汰されかねません。
職員の配置についての加算にも問題があります。ただでさえ少ない介護福祉士の争奪戦がすでに起きています。算定には一定の割合で介護福祉士を雇う必要が あるため、敗れた事業所は次つぎに閉鎖に追い込まれることになります。
さらに、加算にともなう事務負担が増えることも問題です。算定には記録などの整備が必要です。いまでも実務負担は多く、ケアの時間を記録にあてざるを得ない状況です。現場の困難をいっそう拡大するものです。
利用者の負担増につながる問題も
もう一つ大きな問題は、今改定に利用者の視点がまったくない点です。介護報酬が上がることは、 利用料が上がることに直結します。報酬の改定といっしょに利用料負担の軽減が必要ですが、まったく行われていません。全日本民医連の「介護一〇〇〇事例調 査」でも明らかになったように、お金がなくてサービスの利用を中止したり減らしたりしているケースが全国でたくさんあります。お金のない人は、利用を制限 せざるをえなくなります。
また支給限度額は変わらないので、報酬単価が上がると、保険で利用できる範囲がせばまることになります(図)。いままでと同じ利用内容を続けるには、限度額をオーバーした分を自費(一〇割負担)で利用することになり、その分が利用者の負担増になります。
いずれの場合も、利用者にとっては、必要なサービスが受けられなくなります。
事業者にとっても、報酬が増えてもその分が利用が減れば、結局収益は増えず、プラス改定した意味がなくなります。
改善には公的補助が必要
以上のように、今改定はさまざまな問題があり、介護崩壊の現状を変えるものではありません。最 低でも五%以上の報酬の引き上げが必要です。それで制度開始時の水準にやっと戻せます。また、加算中心の改定ではなく、基本の報酬自体の「底上げ」が重要 です。介護報酬の大幅な引き上げ、改善によって、安定した経営や職員の労働条件を抜本的に改善する展望も生まれてきます。
介護報酬の引き上げが利用の抑制につながらないようにすることも重要です。一つは、一割という重い利用料負担の軽減が必要です。とくに地域区分による報酬単価の上乗せなどは、利用者とは関係のないものです(図)。利用料に反映させないことが必要です。二つ目は、支給限度額を引き上げ、必要なサービスを保障すること。そして、介護保険料に対する公的補助を実施することです。
四月の実施まであとわずか。少しでも前進を勝ち取るために運動を強めていくことが、いま求められています。
もう1つの大きな問題
新しい要介護認定システム
4月の介護報酬改定と同時に、要介護認定システムの変更が行われようとしています。要介護認定は、認定調査をもとにしたコンピューターによる1次判定、審査会が行う2次判定の二段階で行われています。
今回、1次判定に用いられるコンピュータープログラムが変更されます。内容が公表されない「ブラックボックス」であることや、軽度に判定されやすいという報道もあり、不安が広がっています。
また、認定調査の項目から「不潔行為」「火の不始末」などの認知症関連の項目を含む14項目が削除され、新たに「独語」「調理」など6項目が追加されま した。認定情報が減り、正確に実態が反映されるのか心配の声が上がっています。
さらに、審査会に提出される検討資料が削減・変更されることになり、実態とかけ離れた認定結果になる心配があります。
実施されれば、いまより介護度が低くされ、利用者が必要とされるサービスを受けられない恐れが生じます。
(民医連新聞 第1445号 2009年2月2日)