輝く民医連の看護・介護 人工呼吸器の患者さんとともに楽しんだ旭山動物園 北海道・一条通病院 木村美貴(看護師)
北海道・一条通病院には二年ほど前から人工呼吸器で過ごしている民子さん(仮名)が入院しています。脊髄小脳変性症という進行性神経疾患で、少しずつ身体の自由を奪われ、意思疎通はかろうじて表情・うなずきによって取れる状態です。
毎日、午後になるとベッドサイドには夫が寄り添い、仲のいい様子が見られます。現在の人工呼吸器は以前より小型になったため、民子さん専用の車椅子に装着して、夫婦で院内を散歩することも容易になりました。
短時間なら自宅への外出も可能と考え、夫に「どこか行きたいところはないですか?」と相談もかけましたが、遠慮がちに「いまのままで充分」という返事ばかりでした。
家族の希望を叶える
旭山動物園は年に一度、障害者を対象に「夜間特別開園」を行なっています。それを新聞の記事で 知った夫が「行けないだろうか。無理だよね」とスタッフに話しました。初めての「どこかへ連れて行きたい」という家族の希望です。なんとかして叶えること はできないか。医師を含めスタッフ全員で検討しました。
動物園には「人工呼吸器管理」である旨を記載して申し込みました。ほどなく待望の招待状が届き、不安よりも喜びが大きく広がりました。スタッフはすぐに 物品を準備し、動物園には事前に下見に行くほどの熱の入れようでした。
頭上のペンギン
当日は小雨が降っており動物園に向かう介護タクシーの中で、民子さんはずっと目を閉じていまし た。しかし、ペンギン館のドームに入ったとたん目が開き、頭上に見えるペンギンを追っているのが眼球の動きでわかりました。アザラシ館、白くま館、猛獣館 と閉館の「蛍の光」が流れるまでゆっくり、家族とともに見ることができました。後日、民子さんに動物園の感想を尋ねるとしっかりうなずき返してくれまし た。
みんなの力で可能に
当日、同行した医師、看護師は不安もありましたが、民子さんの動物を見ている表情、家族の笑顔を見てホッとし、いっしょに楽しむことができました。
患者さんや家族の願いを大事に受け止めてチーム全員でとりくんだ結果、院内では見られない表情や笑顔に出会えて、私たち医療者も元気になれました。このような関わりを今後も大切にして、患者さんやご家族に寄り添った看護を大切にしていきたいと思います。
(民医連新聞 第1443号 2009年1月5日)
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