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民医連新聞

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9条は宝 私の発言 〈42〉 アフガンに“対話”を 生活の安定と夢が武器を捨てさせる

レシャード・カレッドさん(医師)
 1950年、アフガニスタン生まれ。静岡県在住。NGOカレーズの会理事長、レシャード医院院長、島田市医師会長。

 九条・医療者の会での講演「アフガニスタンの現状と日本に求められる復興支援」を紹介します。

伊藤和也さんのこと

 アフガニスタンは一九七九年のソ連侵攻以来、ずっと戦争の中で平和な生活が、奪われています。
 故・伊藤和也さんは「カレーズの会」の元会員でした。農業支援を志し、すでに実践していたペシャワール会に移ったのです。「みどり豊かな国に戻したい」と穀物の栽培を指導していました。
 私は「誘拐」のニュースを聞いて、すぐ伊藤さんの両親を訪ねました。そこに悲報が届きました。
 悲しみのどん底で、両親が私に言いました。「和也は道半ばで亡くなった。日本ではアフガニスタンに悪感情が高まると思うが、和也が最期の瞬間まで願って いた支援を続けてほしい」と。私は、こんな時にそう言えることに驚き、とても感動しました。

いまも命が奪われている

 アフガンでは、いまも人命の犠牲が続き、最近の一七カ月で六〇〇〇人が死亡しました。うち一五 〇〇人が一般市民でした(人権保護監視団)。空爆で家も学校もなくなり、ボロボロのテントで子どもが暮らしています。地雷で足を失った人、子どもが多数い ます。地雷はいまも八〇〇万発あります。田畑に埋まっているため、農業ができず生活の途が断たれています。
 「お前の車が米軍車の一〇〇メートル以内に近づいたら撃つ」という看板が至るところにあります。連合国と米軍は「人が集まると反政府活動をする」として、結婚式などを空爆するため市民の犠牲が絶えません。
 支援もインフラ整備も地方に行きわたらないため、食い詰めた人が都市に流入しています。首都カブールは四〇万都市でしたが、いまや三倍の人が住んでいます。
 しかし、都市でも雇用が不足し、衣食住の確保が困難です。こうした事態に、支援金の不正配分や地域格差、武装解除(DDR)の失敗が加わって、治安が悪 化しています。郊外では麻薬の原料になるケシの栽培が堂どうと行われています。これが戦争の結果です。
 私は「新テロ特措法」延長には反対です。昨年、国会でものべたように、給油の八割はイラク戦争に使われていて、アフガン復興やテロの防止には役立っていません。

給油より「生活と健康」へ

 では、どんな支援が必要でしょうか。人びとの健康や生活のベースづくりにお金を使うこと、人び とが自立して食べていける手段を整えることです。アフガンは、かつて果物の宝庫で、とくにブドウがたくさん栽培され、チンザーノ・ワインの原料だったので す。空爆でブドウ畑は跡形もなくなってしまいましたが…。
 医療の実情についてのべます。乳児死亡率は一二三(〇七年‥千人当)。五歳までの死亡率が一九一。この数値は、子どもの二〇%が五歳まで生きられないこ とを示します。妊産婦死亡率も高く、お産で死ぬ確立は十数%あり、その危険を冒して、女性は生涯に平均六回お産しています。
 栄養状態も悪く、四〇%が低体重で、五四%が低身長です。地方ほど健康状態は悪い。医師・看護師・薬剤師の数は日本に比べ一〇〇分の一という状態です。

暮らしの手段と夢を

 「カレーズの会」は二〇〇二年に発足して以来、診療所や往診でのべ一五万五八〇〇人の患者を診 ました。その経験から、(1)とくに女性が不健康で、結核やうつ病が多い、(2)清潔な飲料水が少ないため消化器系の伝染病が多い、(3)予防接種が受け られず子どもの三分の一が死亡している、などが明らかになっています。
 私たちはいま、一五~四五歳の女性の破傷風予防注射や、新しい診療所と学校の開設、日本(静岡)の子どもたちとの交流などにとりくんでいます。私たちの 励みは子どもたちの笑顔です。かつてのアフガニスタンのように、天然のチューリップが咲き乱れる野原が戻り、子どもたちがいつも笑顔で暮らせる日を夢見て います。
 いま必要なのは「対話」です。力ずくではダメです。対話によって武器を減らしていくしかありません。武器の提供者は安全な場所にいて、アフガンが世界の政治の犠牲になっているのですから。
 かつて「予防接種のために三日間の停戦を」と呼びかけ、実現しました。そのとき、弾丸は一個も飛びませんでした。それを思い起こし、対話をすすめるべき です。同時にインフラを整備し、人びとが夢を持って生活できる手段を持てるようにすることです。

【カレーズの会】2002年に発足し、医療と教育の分野でアフガニスタンの復興支援を行うNGO。カレーズとは同国の全土に流れる地下水の意。いまカンダハルの新診療所や学校建設をすすめ、会員・寄付金を募集中。詳細はホームページ。
【郵便振替】00850-3-97962
【名義】カレーズの会

(民医連新聞 第1442号 2008年12月15日)