ここは「第二の我が家」 安心して最後まで暮らしたい 神奈川 グループホーム 菜の花の家
認知症のグループホーム。少人数で家庭的な共同生活を営みながら、介護ケアを受けます。入居者の高齢化に従い、ホームとしては適 応のない「看取り」も想定し、手厚い身体介護で入居者をささえています。そこから介護保険制度のさまざまな問題が浮かび上がっています。(佐久 功記者)
永井トミエさん(93)。六年前、菜の花の家開設時に入居しました。今年五月に脳梗塞で倒れ入院。本人の努力もあり、八月に退院し戻ってきましたが寝たきり状態です。
「戻って来られて良かった。ここしか行くところがありませんから」と息子の宏さん。
トミエさんは夫を早くに亡くし、家族は宏さんだけ。地元で牛乳屋を営み、八〇歳を過ぎても配達を続けました。長年一人暮らしでしたが、六年前に肺炎など で入院。認知症もあったため、退院を機に自宅を引き払い、菜の花の家に移りました。
「母一人、子一人です。仕事もあり、同居は難しい」と宏さん。「いまは、ここが自分の家だと本人も言っています。できることなら、ここで最期を迎えさせてほしい」と、看取りを希望しています。
介護報酬上げて
増えていく看取り
菜の花の家では、こうしたケースはトミエさんが初めて。グループホームは認知症のケアが目的 で、身体介護には対応していません。しかし、高齢化とともにそのケースが全国的に増え、大きな課題となっています。全国認知症グループホーム協会の調査に よると、昨年一年間に、約二割のグループホームで看取りを経験しています。
しかし、グループホームそのものが、重い身体介護のために設計されておらず、職員数も限られ、増やそうにも介護報酬が低すぎます。
「それでも職員たちはがんばっています」とホーム長の金谷美津子さん。看取りの経験がない職員が多く、夜は当直一人体制。ほかの入居者の対応をしながら、一人で対応できるのかなど、大きな不安がありました。
しかし、職員の学習会や家族との面談、主治医・看護師との相談をすすめ、何かあればホームの裏に住む金谷さんが駆けつけるなど体制を整え、受け入れました。
「まるで療養型」
終末期の場合、介護量が増えます。そうではない入居者も、年とともに介護度が上がっていきます。職員はどんどん忙しくなっています。
菜の花の家では、トミエさんを含め三人がミキサー食です。食事は全介助が必要なので、食事時間をずらし対応しています。トミエさんはお風呂に入れる状態 ではないため、一日何度も部分的に洗います。「グループホームのミニ特養化」「まるで療養型」と金谷さん。
しかし、療養病床の削減や特養ホームの不足もあり、ほかに行くところはありません。
経営成り立つよう厚労省は対策を
現場に求められることは増えていますが、それに見合う介護報酬はありません。職員を増やしたり、給料を上げることができず、低賃金のため募集しても集まりません。
「当ホームは、定員の九人が入居して、はじめて経営的に成り立つ」と金谷さん。
菜の花の家では最近、代わる代わる入院があります。しかし空いた部屋に、新しい入居者を入れるわけにはいきません。二カ月間は戻れるよう待ちますが、その分は赤字です。
「この状態を何年も続けられません。制度を継続するには、厚労省がきちんと介護報酬を上げないと困ります」。経営が成り立つ介護報酬が必要です。それが入居者や家族の願いに応えることにもなります。
宏さんは言います。「ここがなくなったら、本人や家族が困る。ここは生活の音や声が聞こえるのもいい。母には第二の我が家です。国が何とかできるのなら、何とかしてほしい」。
来年四月には介護報酬改定を控えています。全日本民医連が発表した声明のように、五%以上の引き上げが必要です。
(民医連新聞 第1440号 2008年11月17日)