水俣病患者の早期救済へ 「共通診断書」が力に
水俣病の公式確認から五二年がたちました。しかし解決するどころか、水俣病の認定求め声を上げる患者が増え続けています。二〇〇 四年の関西訴訟最高裁判決後、六〇〇〇人が新たに申請しました。現地の医師たちは、いままでの水俣病解明の到達点をふまえて、水俣病の「共通診断書」を作 成。裁判で証拠として活用されています。(佐久功記者)
「車の運転中に足がつったり、料理中に火がついても気づかず、ヤケドした。今まで自分が水俣病だと思わなかった。元気な体がほしい。きちんと責任をとってほしい」。
「一人目の子は流産、二人目も異常妊娠で死産。三人目は無事に生まれたが、心配でまず聞いたのが、『子どもには、手足がちゃんとありますか?』だった。 私自身も激しいこむら返りで眠れず、鎮痛剤も効かない。夫は『子どもがいじめられる』と申請に猛反対。夫の死後、ようやく申請した」。八月に行われた「ミ ナマタ現地調査」で、患者たちがこう語りました。
いまも苦しみが続く患者たち。行政の認定制度は、何年も待たされるうえに、ほとんど認定されません。「ノーモア・ミナマタ国賠訴訟」では、未認定患者で つくる「不知火(しらぬい)患者会」から約一五〇〇人が原告となり、水俣病の認定と迅速な救済を求めてたたかっています。
この裁判で重要な役割を果たしているのが、水俣病の「共通診断書」です。
長年の蓄積で成果
熊本民医連の高岡滋医師(神経科リハビリテーション協立クリニック)や原田正純教授(熊本学園大学水俣学研究センター長)が中心となり、二〇〇六年に水 俣病の「共通診断書」をつくりました。患者を見捨てない、長年の診察や調査の成果です。裁判でも有効性が確認されつつあります。
行政の「認定」のための診断は一週間はかかり、全身のすみずみまで診て、その分お金もかかります(患者負担)。しかし、全身を診る必要はないのです。
「共通診断書」では、水銀の曝露歴や感覚障害の有無などを調べることによって、迅速に診断ができるようになっています。
成人で水銀曝露した水俣病の場合、中枢神経障害による、手足のしびれや麻痺、視野狭窄、運動失調などが主な症状で、外見だけではわからない病気です。症状があっても年のせいと思い、水俣病と気づかない人はたくさんいます。
また昔から激しい差別や偏見があるため、症状があっても周りを気にして申請をあきらめたり、「金目当て」「ニセ患者」というような陰口を言われ、申請をためらう人もいます。
全国で患者の掘り起こしを
民医連近畿地協では、「近畿水俣病検診」をこれまでに六回実施し、一五七人が受診。「共通診断書」も使い、多くの人が水俣病と診断されました。そして、保健手帳の申請や水俣病の認定申請につながりました。次回は一一月三〇日、尼崎で行う予定です。
水俣病の被害者は、就職や結婚などで全国に移り住んでいます。不知火海沿岸の居住歴があり、手足のしびれなどを訴える患者は、水俣病の疑いもあります。埋もれた被害者はまだまだいます。
共通診断書は、熊本学園大学水俣病研究センターのホームページからダウンロードできます。
http://www3.kumagaku.ac.jp/minamata/shindansho/shindansyo.html
(民医連新聞 第1439号 2008年11月3日)
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