こんな働かせ方 放置する政治家選ばない 無法な派遣 労基法違反
「おい地獄さ行(え)ぐんだで!」。『蟹工船』の冒頭です。労働権がなかった時代の労働者の姿が「自分の姿と重なって見える」 と、共感を呼んでいます。若者をめぐる雇用・労働の実態は「不安定で残業代もない、休みもない。体を壊したら、仕事を辞めさせられた」 。まさに「使い捨て」「モノ扱い」です。そんな中、「生活できる仕事がしたい」「人間らしく働きたい」と、若者たちは残業代の支払いや待遇改善を求める運 動を広げ、成果をあげています。「仲間を集めて声を上げれば、社会は変えられる」と、立ち上がっています。(横山 健記者)
若くても身体ボロボロ
東京民医連の青年職員が新宿駅前で健康チェック
「日雇い派遣とか、不安定な仕事に就いている若者が多いって聞くけど」「健康保険も休業保障もなく、残業代や交通費も出ない働き方なんて…」 。若者の雇用・労働の実態を知りたいと、東京民医連の青年職員有志は「街頭健康チェック&労働相談」を行いました。
人間らしく働けない
九月二七日、新宿駅東口に集まった青年職員は約一〇人。血圧計と体脂肪計を用意、労働アンケートを準備しました。ハンドマイクで健康チェックを呼びかけました。
最初に受診した若者は二〇代の女性。数年前に妊娠中毒症と高血圧で入院しました。「退院してから血圧を測ったことがない」と腕を差し出しました。仕事は 接客業。歩合制のため、残業という感覚はありません。「仕事が不規則で、体が心配」と話しました。二〇代前半の男性は、一二時間勤務が当たり前でした。 「まだ若いから大丈夫。でも休みが月に三日しかない」と不満。その後も若者が立ち寄りました。
街頭アンケートでも労働や健康への不安が語られました。
コンピュータ関係で働く二〇代女性は「残業は当たり前という雰囲気で、残業代がもらえるのは五〇時間まで。みんな体調不良を訴え、人間関係もギクシャ ク。この間、上司が急に音信不通になった。辞めようと思ったけど『いつでもやめられる』と思いながら、続けている」と話しました。話を聞いた青年職員は 「あなたの会社だけではない。人間らしく働けるよう、いっしょに考えていこう」と励ましました。
一時間三〇分で、一〇人が受診し、五〇人と対話しました。
若者の高血圧に驚き
健康チェックを終えて、青年職員たちは感想を出し合いました。「年齢のわりに血圧が高い人が多 かった。聞くとコンビニ弁当が多い」と看護師。青年職員たちも驚きました。「こういうとりくみは初めて。私も仕事がつらいと思っていたけど、もっとたいへ んな人がいた。こんな社会は変えないと」と一年目の薬剤師は語りました。
アンケートでは、半数以上が労働基準法を知っていました。しかし、ほとんどが「残業は多いけど…」「サービス残業もしかたない」と考えていることもわか りました。「定期的に続け、もっとこの問題を学び、広く知らせよう」と話し合いました。
いまがチャンス
細見 学(小豆沢病院・事務)
健康チェックは、かなり目立った行動でした。民医連で働いてると、不安定雇用などがあまり実感できません。今回のとりくみでは、想像以上に深刻な話を聞きました。
「こんな働き方でも…しかたない」と思わされている若者同士の交流が広がれば、「やっぱり間違っている、変えていこう」という運動につながると思いま す。私たちのとりくみが、若者をつなぐきっかけになればと思います。
情勢は厳しいですが、いまが悪い流れを止めるチャンスです。青年ユニオンや日本共産党とともに残業代を払わせたり、日雇い派遣禁止を求める運動に多くの若者が励まされています。
この声を集め、国会や社会にひろげていきたいと思います。
低賃金が強いられる
実態調査から見えたもの
「若者の『使い捨て』は許さない」「最低賃金を一〇〇〇円に」など掲げ、若者の働き方を考えよ うと一〇月五日、東京・明治公園で「全国青年大集会2008」が開かれました。集まった青年は四六〇〇人。「次世代に同じ思いはさせない」と、労働派遣法 の改正や労働環境の整備づくりを求めました。
集会にむけ、全労連青年部や首都圏青年ユニオンなどが、日雇い派遣の実態を調査。派遣一六社一一三現場から寄せられた声を集めました。
モノ扱いの日雇い派遣
調査から見えてきたものは、日雇い派遣で働く若者は「低賃金でギリギリの生活」を強いられていることでした(グラフ)。結果は、平均時給が九一七円、平均日給が七三五七円でした。また「さまざまな名目で給料が引かれる」「給与明細がない。『ほしい』というと発行代八〇円をとられた」などの声もあり、実際に手にする金額はもっと少ないこともわかりました。
交通費では、三割以上の現場でまったく支給されていませんでした。そのほかの回答では「言われた条件と違った」が二四件、「危険な作業をさせられた」が 七件など、契約無視の内容も目立ちます。まさに日雇い派遣をモノのように考えている実態が浮き彫りになりました。
日雇い派遣の若者たちは「望んだ働き方」ではなく、「選ばされた働き方」でした。「病気で月に一五日しか働けない。日雇いの仕事しかない」「前の職場に 耐えられず辞めた。日雇いは次が決まるまで」と、病気や解雇など、すぐに働ける仕事が「日雇い派遣」しかないという現実がありました。
実態を知り、ネットワーク広げよう
首都圏青年ユニオン書記長・河添 誠
首都圏青年ユニオンは、一人では解決できない労働問題を同じ境遇の仲間とともに考える労働組合です。最近は「生活に困っている」という問い合わせも来ています。本来は、行政が受ける相談です。
二年間、日雇い派遣を続けてきた二〇代の男性が「お金がない」と連絡してきました。腰を痛め、会社の寮も追い出され、公園で寝泊まりしながら日雇いを続 けていました。自立サポートセンター「もやい」につなげ、生活保護を取得できるよう動いています。
不安定雇用の若者は毎日「解雇」の不安を抱えています。みなさんも急に「クビだ」と言われれば、大きなショックを受けるでしょう。それを毎日のように感じている若者が、日本には何百万人もいます。
いま「反貧困」の流れが大きく広がっています。来たるべき総選挙では「若者の労働問題」を重要な争点にしなければなりません。こんな状態の原因である労 働者派遣法も変えて、社会保障費削減をやめるよう、政治を変えることです。この問題と向き合わない政治家には、責任をとってもらう。そのためにも私たち自 身が「いい加減な選挙、投票をしない」ことも重要です。
貧困に陥った人は、周りとつながりが保てず孤立し、声のあげ方がわかりません。希望を失い、自殺を選ぶ人も増える一方、自暴自棄になる人も出ています。彼らをささえるネットワークづくりが急務です。
民医連は、共同組織とともに地域に根ざし、困難な人びとを医療と運動でささえてきました。いま底力を発揮し、埋もれた若い貧困層をささえる活動にとりく んでほしい。若い職員さんの「社会や地域の役に立っている」と自信にもつながります。
まずは、集会や現場に出て、実態を知ってください。そして私たちや「もやい」、生健会などと協力し、ネットワークを強めましょう。
(民医連新聞 第1438号 2008年10月20日)