国の政治転換迫るチャンス 住民の財産 “公立病院守れ”シンポ
兵 庫県の但馬(たじま)。国・県立病院がなく、住民の頼りは自治体組合で設立した病院(9施設)です。ここも激しい医師不足が生じ、国や県がすすめる「集約 化」でさらに医療の縮小、医師の疲弊、住民の不安は強まりました。たじま医療生協や住民がつくる「医師確保・公立病院守れ但馬実行委員会」は9月21日、 2つの基幹病院の院長などを招きシンポジウムを開催。全日本民医連副会長・藤末衛医師が講演しました。「但馬の公立病院は住民と自治体がつくった財産。守 ることは住み続けられる条件」との話や民医連の活動にも共感が広がっています。(小林裕子記者)
コーディネーター パネリスト(敬称略) 藤末 衛(全日本民医連・副会長) |
兵庫
たじま医療生協 住民とともに奮闘中
県の「二病院を診療所化する計画」は住民の猛反対で中止されましたが、医師の集約化は実施に。その結果、一つの病院に救急患者が集中し、異動で医師が減った小病院では、夜間の急患が受けられず、「四日連続当直」「月の半分は当直」という事態です。
県が地域の実情を無視して強行した理由は、国(総務省)の意向です。これを問題視したのが日本共産党の山下よしき参議院議員でした。但馬の全公立病院を 訪ね、院長と懇談。国会で「一律の方針押しつけは地域医療崩壊の引き金を引くことになる。但馬の実情をつかみ、医師確保に努めてほしい」と総務大臣に迫り ました。
たじま医療生協が届けた「医師増やせ」の署名に、公立病院の医師や開業医が思いを寄せました。今回のシンポジウムは「医師の思いを住民がとことん聴く場 に」と、医療生協は住民をはじめ開業医にも案内。雨の中、昨年を上回る約四〇〇人が参加しました。
国は本気で医師増を
藤末衛副会長は講演の中で、公立病院の困難は低い診療報酬、日本の絶対的医師不足から生じ、地 方大学が医師派遣できなくなったのは、新医師臨床研修だけが原因ではなく、大学病院の独立採算を求める行政法人化が影響し、地方行革による自治体の財政難 と高コストの病院建設なども関与と指摘しました。
「国の医師増員決定は成果だが、大学予算は毎年減額。社会保障二二〇〇億円削減も続けている。政策のねじれを正し、転換しなければ解決しない」とのべま した。また、「医療の地域経済への波及効果は『厚生白書』も認めている。公立病院群は但馬№2の雇用を確保している。医師と住民が自信を持って守ろう」と 励ましました。
医師と住民の心が通う
シンポの発言者は、それぞれ公立病院が担う医療と役割をデータで示し、思いをのべました。「当 直明けも目の前に仕事があり休めない」「年間の当直数が一二〇日とは、四カ月家に帰れていないこと。医師が確保されているときは、収益も良かったのに」と いう苦渋の言葉も出ました。
「医師の再配置も一時しのぎ。努力して医師を集めて良い医療を続けたい」「過疎化や住民・病院職員の高齢化を思うと、在宅医療なども考えたい」「行政・ 病院・住民が力を合わせなければ」「医療も消防署のように無料で、すぐ対応するのが当然では? お腹が痛くてもガマン、では本末転倒」など率直に語りまし た。
山下よしき議員は「患者がいる限り続けるという医師、子どもを自治医大に入れようと話し合う住民。危機感と熱意に政治が応えるとき」とのべました。
会場の八〇代男性は「私は透析を受けている。担当医の受け持ち患者の多さに、倒れないかと心配」と発言。住民と医師たちのお互いへの思いやりも通い合いました。
地域の民医連として
同医療生協・ろっぽう診療所の藤井高雄所長は「国や県の“赤字病院は閉鎖”という一方的な方針を転換したい。公立病院は住民の共有財産です。民医連の私たちも地域の住民、医師たちと同じ思いで、運動しています。地域の中で研修医を育てたい」と語りました。
ろっぽう診療所の職員たちも最後まで、参加者に「お疲れ様」と声をかけていました。
兵庫県の面積の4分の1という広大なところに県の人口の4%が住む、歴史と自然の豊かな但馬。1000m級の山や川の間を道路がくねり、50~60戸の集落が点在する地域もある。 |
(民医連新聞 第1438号 2008年10月20日)