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民医連新聞

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白熱の議論! 医療再生の道 「民医連の医療介護 再生プラン(案)」でシンポジウム

  全日本民医連は、崩壊の危機にある日本の医療・介護制度の再生をめざし、『医療・介護制度再生プラン(案)』を公表し、各界に論議を呼びかけています。七 月一九日に東京でシンポジウムを開きました。民医連の職員や共同組織、市民、マスコミ関係者ら四七二人が参加し、今田隆一副会長の司会で、シンポジスト四 人と活発に意見交換しました。とくに財源問題や消費税について議論が白熱。「医療のゼロ税率」も議論になりました。医療・介護関係者だけでなく、他分野か ら意見を聞き、さまざまな視点で、より実現性あるものに練っていく、その過程の大切さを多くの参加者が実感しました。鈴木篤会長とシンポジストの発言要旨 を紹介します。(文責=編集部)

大同団結で再生の道へ

鈴木 篤(全日本民医連会長)あいさつ

 本シンポジウムは、単なる説明会や学習会ではありません。私たちの提案を素材に、必要な財政論や基礎的認識について、考えの相違点も含めて共有し、論点を整理し、国民的論議の一端にするために開きました。
 問題は、政府の社会保障削減の継続です。誤った医療制度改悪をやめ、憲法二五条を社会保障政策の基本にすべきです。いま、消費税を引き上げて、福祉目的 税化することが論点になっています。私たちは消費税の増税に反対です。財源は薬品や材料費などの是正、高所得者層や大企業の保険料引き上げ、軍事費の削減 などで行うべきです。
 強調したいのは、国民との大同団結が、医療再生の推進力だということです。医療は社会的共通資本であり、地域経済と結びついています。医療・福祉の再生 は、社会経済の再生の道です。地域医療を守る住民運動との連帯も大切と考えています。

まず正しい情報の共有を

本田 宏さん(済生会栗橋病院副院長)

 医療崩壊を止めるには、情報操作に負けず、正しい情報を国民と共有することがポイントです。一九九九年ごろから四大新聞に医療事故の報道が増え、残念ながら国民や患者さんに「医療者は何をやっているんだ」と思われました。医師不足の報道が増えたのはごく最近です。
 私は当時から「医師不足が医療事故につながる」と言ってきましたが、いくら新聞にメールを出しても紙面に載らず、医療事故ばかりが強調されました。医療 現場から真実を伝えることが絶対必要です。政府は医療費を削る理由を「財政赤字が世界一だから」と言うが、財政赤字は、医療や福祉、教育の責任じゃない。 立花隆さんは「現在進行中なのは土建屋政治亡国、医療費亡国ではない」と発言しています(日本医師会HP)。
 昨年、外科系の学会で、財務省の人が「今後は公共事業が減り、社会保障が増えるばかり。医療費を減らすしかない」と。少し減ったとはいえ、日本の公共事 業は世界でダントツ一位です。社会保障が増えても、まだOECD平均にも満たない。財務省の人は、最近の変化だけをグラフで示しました。「フェアじゃな い」と指摘すると「確かに公共事業は使いすぎていた」と、コメントしました。これも情報操作です。
 日本では、所得が一〇億円を超える金持ちも国民保険料の上限は六〇万円です。応能負担は、国民の主権者としての自覚が高くないとできません。「負担が高 いんだったら外国に行く」と考えるのは、恥ずかしい話です。すすんだ国では「税金を出すのはお互い様」です。
 たとえばデンマーク。税金は高いですが、教育も医療も無料、福祉も「受益者負担」などではありません。何より大事なのは、デンマーク人は国がムダ遣いしたら、黙っていないことです。
 日本の病院は、米国やヨーロッパに比べ、スタッフがすごく少ないことも問題です。「どうしても公共事業」というなら、医療を公共事業と考え、医療業界で 働くようにしたらいい。ダム、道路工事に従事していた人を、医療で働くように変えればいいんです。その分、過重労働が減る。医学部定員を増やしても医師は すぐに増えないから、助ける人を増やせばいい。医療はマンパワーが必要で、雇用増進、地域活性化にも貢献可能です。
 マーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師は「世界最大の悲劇は暴言や暴力ではなく、善意の人びとの沈黙と無関心。後世に恥ずべきは、暗闇の子どもた ちの言動ではなく、光の子どもたちの弱さと無気力だ」と言いました。
  みなさん、黙ってちゃダメです。医療・福祉・教育は超党派でやるべきもの。マニフェスト選挙の時代ですから、候補者が医療をどう考えているか、よく見て投票しましょう。

公的医療費を増やすべきだが…

権丈(けんじょう)善一さん(慶応義塾大学教授)

 日本福祉大学の二木立教授は「医療費増加の主財源としては社会保険料の引き上げを」「歳出のムダ削減には賛成だが、医療費増加の主財源とはならない」と書いています。私も基本的には同じ考えです。
 二年前の経済財政諮問会議で、小泉さんに誰かが「歳出削減はいつまで続けるんですか」と聞きました。すると小泉さんは「歳出をどんどん切り詰めれば『や めてほしい』という声が出る。『増税してもいいから必要な施策をやってくれ』という状況になるまで徹底的にする」といった。それがいま起きています。
 さて、民医連の『医療・介護再生プラン案』についてです。
 まず「G7並みに総医療費を増やせば…」の部分。ここでは公的医療費と私的医療費をまったく区別していません。これは医療問題を考えるうえの基礎的事実 の欠落です。医療費を増やすとき、私的か公的かでは全然意味が違います。
 私的・公的医療費を足し合わせたものが、日本では対GNPで八%、公的医療費の部分は六・六%で八割以上を占めます。アメリカは、公私合わせて一五・二%。六・八%が公的医療費で半分以下です。
 アメリカは公的医療保険がカバーしているのは人口の二五%しかありません。その公的医療費の部分が日本のそれより大きいわけです。いかにも日本は少な い。そして、もし混合診療を全面解禁して、私的医療費を上げても、医療費全体は一気に上がります。私はそれではいけないと思います。
 次に、消費税についての記述では、GDPに占める消費税の割合を見ていない。日本は他国に比べ、租税収入全体が小さく、割合だけを見て「消費税が大きい、限界に達している」と言うのは無理があります。
 「消費税は本来廃止すべきですが、当面、EUのように生活関連商品は非課税とすべきです。もちろん医療分野も非課税とすべきです」も理解できない文章で す。たとえば、デンマークは一律二五%の消費税です。OECDやEU諸国は、標準的に一五%以上の消費税で、軽減税率も制限されています。むしろ、デン マークやEUでは「お金が必要な人たちには給付する」ほうが効率的だという考え方に立っています。
 「医療を非課税に」といっても仕入れにかかる消費税は患者に転嫁できません。だから苦しんでいます。
 また、「消費税は本来廃止すべき」なのでしょうか。悪いところばかりでなく利点もあります。確かに逆進性があります。けれど、入ってきた消費税をぜんぶ 社会保障に使えば、低所得者にとってプラスになります。「消費税で社会保障をやるならいい」という考え方もあるのです。

消費税でない「財源」を

浦野広明さん(立正大学教授)

 税法の基本は、日本国憲法です。税は負担能力に応じて払うものです。累進課税で、最低生活費や生存権的財産については非課税が原則。地方税も社会保険料も同じです。
 また税金は、憲法がめざしている方向に使うものです。日本国憲法は平和、生存権、社会保障・福祉を重んじています。したがって、すべての税金は生存権を保障するために使うべきです。
 OECDは、日本に政策勧告を行っています。二〇〇七~八年の勧告には「七五歳以上の新保険制度の導入で支出を抑える」とか、税制面では「消費税率の引 き上げ」があります。日本国憲法とまったく逆の方向です。残念ですがOECDは、これを見る限り「新自由主義推進同盟」のようです。
 消費税の社会保障目的化というのは「福祉を求めるなら消費税を上げる。それが嫌なら福祉を求めるな」という話になります。税金すべてが福祉目的、生存権 保障のためですから、一部の消費税を福祉目的税ということ自体がおかしい。
 財界が「消費税を上げろ」という目的は何か。日本の多国籍企業の中心は、輸出製造業の自動車や電気関係です。輸出部分の消費税は「完全非課税」で、多数 のもどし税があります。つまり輸出製造業は、消費税で得をする。これが本質的な問題です。
 また、消費税は「貧困化を生む税金」です。大企業は消費税を減らすため、人件費を外注化しているのです。「外注費」は「仕入」に算入するので消費税の課 税対象から差し引けます。そのため、子会社をつくって人材派遣に切り替えています。子会社の側は、資本金が一〇〇〇万円未満なら二年間は消費税がかからな いので払わない。二年ごとに子会社をつくっては潰します。こうして消費税は、正規雇用者も減らしています。
 「不公平な税制をただす会」はかつての制度に戻すことで、二一兆円の税収があると試算しています。一般消費税を縮小し、個別消費税(物品税)を充実すべきなのです。
 私が携わった無認可保育所の例を紹介します。国税庁は、無認可保育所は消費税を課税、認可は非課税にしていました。免税が一〇〇〇万円に引き下げられた とたん、課税される保育所が増え、運営が苦しくなりました。そこで厚労省に働きかけ、〇五年に消費税の非課税を勝ち取りました。権利として法律を変えるた たかいが重要です。
 結論的には『再生プラン案』の実現には、憲法を生かす運動が必要です。国政の変革と連動すること、多くの人に知らせること、粘り強く運動していくことだと思います。

地域ごとの「再生プラン」と医師養成を

堀毛(ほりげ)清史さん(北海道勤医協理事)

 北海道の地域医療が危機に瀕しています。奥尻地域で唯一の病院が、療養病棟を閉鎖することになりました。救急は函館にヘリコプターで運ぶのですが、患者の帰り先の病床がないと受け入れないのです。過去の津波災害で確立されたこの方式も厳しくなっています。
 とくに自治体病院の困難が際立っています。根室市の市立病院では医師が次つぎ辞め、救急、小児科、産婦人科が休診・縮小しました。現在九四ある市町村病 院は、三八が診療所化、九施設が縮小です。医療崩壊ではなく、医療破壊です。遠別町の町立病院が閉鎖すると最寄り病院は九九キロ先です。これで人の命が守 れるでしょうか? 
 なぜ地域医療が崩壊するのか。たとえば道東地域では急性期、専門、療養病床の連携が、療養病院の廃止・縮小で崩れました。急性期病院から出された患者さ んの行き先がなく、釧路市の特養は一四〇〇人の待ち状態です。自宅も受け入れ条件がない。患者さんを送れず、急性期病院も成り立たなくなりました。
 しかし一方で、何とかしようという動きも起きています。地域医療をよくするための集会が、数えきれないほど開かれました。釧路市立病院で、循環器医五人 全員が辞めたときに釧路労災病院と釧路医師会病院が、循環器の医師を移籍させて、地域医療をささえました。根室でも地域の人たちが「根室の地域医療を守る 会」をつくり、開業医にも呼びかけ、市立病院の日直に開業医が入ることになりました。
 稚内市では、「地域で医師を育てたい」と、中学校の校長先生が小・中学生の「進路探検・医師講座」を開きました。保護者も含めて六六人が集まり、四人の 研修医が話しに行きました。町長が「今日参加したみなさんから一〇年後、前で話をする人が生まれてほしい」と言いました。地域あげて医師をつくり出そうと いう動きです。地域ごとに医療再生プランが必要だと思います。
 医師養成の問題では「義務化しても配置して」という声もあります。しかし、いまの青年医師は義務で配置されて力を発揮できるでしょうか? それより「充 実した研修」と「医師のやりがい」だと思います。青年医師の志向は「ER(救急救命室)」「Dr・コトー」といわれています。救急と地域医療に情熱をもっ た医師を育てるには、国が医師を増やす方針を立てないとダメです。そのうえで、いままでのように一つの病院が研修医を囲い込むのではなく、地域全体で育て るようにしたい。
 青年医師を主人公にし、行政は地域の動きを保障する。そう提案したいと思います。

(民医連新聞 第1434号 2008年8月18日)