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民医連新聞

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9条は宝 私の発言〈38〉 映画の多様性いかし平和のメッセージ届けたい

高橋邦夫さん(映画人九条の会事務局長)
1948年、新潟県生まれ。映画演劇労働組合連合会中央執行委員長。

 日中合作の長編記録映画「靖国」に対し、自民党議員が国会で中傷発言して問題 になりました。公的助成金を受けたのは助成する審査員の中に「特異な政治的立場の人がいたから」というのです。「映画人九条の会」の高橋さんに、ことの本 質と日本映画をとりまく現状を聞きました。(聞き手 渋谷真樹記者)

「憲法守ろう」は特異?

 映画「靖国」の事件は、危険な問題を内包しています。右翼の妨害によって周りに迷惑がかかるか らと、上映を中止した映画館が出ました。妨害に屈して、言論・表現の自由の場が失われたことは問題です。それだけではありません。自民党議員が、映画への 公的助成を口実に、言論と表現に政治的な圧力をかけたことが一番問題です。
 日本芸術文化振興会は「靖国」に七五〇万円を助成しました。助成を決める審査員は、経験や専門性を持つ人から、それぞれ五~六人が部門別に選任されてい ます。ドキュメンタリー部門の審査員の中に「映画人九条の会」のメンバーがいたことを自民党議員は挙げて、「政治的・思想的活動が、助成金交付決定に影響 を与えたのでは」と国会で執拗(しつよう)に迫ったのです。これはもう一種の「魔女狩り」「レッドパージ」といえるものです。
 文化庁は「政治的な宣伝と政治的なテーマを持つことは違う。メンバーの選考は多数の意見で決まった」と反論しました。私が危惧するのは、今後、審査員を 選ぶとき、映画人九条の会のメンバーが外されることです。「わざと排除したわけではなく、今回はたまたまメンバーに入っていません」というやり方で「公平 性」を口実に圧力をかけて、政府の意にそぐわない審査員を排除するといった道を敷くのは絶対にしてはならないことです。恐ろしいことでもあります。
 先日、NHK番組「セーフティネット・クライシス」について自民党議員が「民医連ばかり取り上げて公平性を欠いている」と言いました。あれも気にいらな いものを排除する本質は同じですよ。民医連の病院でないと、取材に応じないのに。本当にひどい話です。こういうとき機敏に反論や抗議しなければいけませ ん。
 そもそも「九条の会」は政治的な団体ではありません。「憲法を守ろう」という、日本人として当たり前のことを言っているだけで、特異な立場ではありませんよね。

ドキュメンタリー映画もつくれるように

 最近、政治的なドラマとか、社会性の強いテーマの邦画が少なくなってきました。大資本がスポンサーとしてつきにくいんです。むしろ、ハリウッド映画の方に、ベトナムやイラク戦争の後遺症を扱った反戦色の強い優秀な映画が何本かあります。
 現在、日本映画でヒットしているのは、エンターテインメント性が強く、テレビ局と共同して制作、宣伝されるものばかりです。テレビ局が絡まないと興行的な成功が難しいんですよ。
 逆に地味なドキュメンタリー映画は、全国で一斉に公開することはできませんから、商売としても難しい。だから、そういう映画は、公的な助成がなければつくれないのです。
 「政治的なテーマを扱った映画はダメ」となったら、映画の多様性が失われます。お国の意向に沿ったような映画ばかり助成されるようになったら、そんな作品しかつくられなくなってしまう。それが一番危ないですよ。

映画人の発言力いかして

 「映画人九条の会」はこれから、著名で多彩な映画人の「九条を守れ」のメッセージをみなさんに どんどん届けていこうと思っています。「映画人」の発言力も生かした活動をしていきたい。それに、いま話題性のある映画の上映会と、それに関する講演会を 組み合わせてやっているところです。
 「映画人九条の会」は、会費無料で映画が好きな人なら、誰でも入会できます。ぜひ入会してください。「九条を守る」という一点でみんなが集まって大きな運動にしたいですね。

(民医連新聞 第1434号 2008年8月18日)