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民医連新聞

民医連新聞

7対1看護 なぜ制限? 「待っててね…」と言わせないで 看護守る大運動を

 〇八診療報酬改定で七月から「7対1看護」の届け出に「重症度・看護必要度」が導入されました。中医協建議は「手厚い看護が必要 な入院患者が多い病院に限る」といい、基準を満たす患者が一〇%以上いない病院を排除。厚生労働省は「これで二割が脱落する」と説明しています。看護現場 の矛盾も大きくなっています。(小林裕子記者)

続けられない「7対1」

 北海道勤医協の札幌病院は今年の七月、「7対1看護」を断念し、「10対1」に戻しました。基準を満たす患者を維持できないと判断したためです。
 看護師長の玉井三枝子さんは「二重のつらさがある」と語ります。
 同院では、復職セミナーなどに力を入れ、看護師を確保。〇七年四月に「7対1」を届け出ました。そのときのことを玉井さんは「患者さんとゆっくり話せる ようになった。何より患者さんに『待っててね』と言う回数が減った」と話しました。勘を取り戻した復職者と若手のチームワークが力を発揮しはじめた矢先の 「改悪」です。
 患者の状況は変わらないのに、看護師はまた少ない人数に戻さなければなりません。そして、せっかく仲間になった看護師たちは、慣れた病棟を離れ、他部署 や事業所に異動します。「泣かれてしまった」と玉井さん。理不尽としか思えません。

10対1に戻りたくない

 「7対1」の良さについて、国分生協病院(鹿児島)の元総看護師長・本村隆子さんも言います。 「一人の受け持ち患者を、日勤で八人から五~六人に減らすことができ、直接的ケアの時間が増えました。夜勤体制も人員を増やすことができ、夜間の緊急入院 も安心して受け入れることができるようになりました。いまも重症者が多く、入退院が激しいですから、スタッフは『もう10対1に戻りたくない』と言ってい ます」。
 「7対1」維持の努力も並大抵ではありません。看護師確保や教育、勤務のやり繰り・気配り…、まさに現場の汗と涙で成り立っています。
 看護師を増やさず、診療報酬を引き下げ、争奪戦に拍車をかけた厚労省。「不必要な病院が看護師を確保した」かのような言いかたは不当です。

看護必要度を反映?

 「重症度・看護必要度」測定ツール(*)も疑問です。
 厚労省は委託研究で「7対1」届け出病院(三月調査)と「10対1」「13対1」届け出病院(七月調査)の入院患者を比較。この時に使ったのが三三項目の評価表です。
 結果は、A得点は「7対1」と「10対1」が高く、差は少ない。一方、B得点は「13対1」が最高でした。「13対1」の看護必要度も高かったのです(民医連調査も同様)。
 今度、出された測定ツールは、三三項目とは別物です。「なぜ調査と別のツールなのか」。調査に協力した看護師は疑問を口にします。
 治療内容が複雑な外科など、明らかに看護師の手を要する患者が、このツールでは「看護必要度が少ない」となります。多くの病院にA・Bの片方だけ高くなる患者がいますが、対象外になるのです。

患者チェックでケア減

 「7対1」届け出のため、毎日、時刻を決めて看護師が必要度をチェックしますが、それに費やす時間も問題です。作業は患者一人に五分と仮定、三〇〇床なら一五〇〇分。三人分の労働時間です。一年分を集計する事務量もバカになりません。
 「大切な患者ケアの時間を奪わないで」、というのが、現場の率直な声です。基準を満たす患者を確保する病床管理・看護管理の負担も大です。
 血圧測定回数が一日四回と五回で線引き、輸液ポンプとシリンジポンプで区別するなど、訳のわからない基準もあり、「ふるい落としの手段でしかない」の声も出ています。

厚労省交渉で実態訴え

 民医連の看護師など四三人は、六月二四日、厚労省の保険局医療課と話し合いました。「7対1」の基準についての疑問も出しました。
 担当官は「いま看護師が少ないので、必要なところに配置するのが趣旨」と説明しながら「このツールがよいかどうかは看護界から意見を出したらどうか」と いう苦しい返答。「チェック表と看護計画の実施記録を兼ねてよいか。Aの評価表とカルテは同じでよいか。評価は観察でよいか」など、運用も定かでなく「後 で調べて連絡」という返事でした。
 「7対1」病院を減らすのでなく「増やす方向で考えてほしい」の要望に、担当官は「私も看護師。皆さんの意見を役立たせたい」。「では看護師が増えれば 7対1を増やすのですね」の質問に「二二〇〇億円の削減で動いているので…」。窪倉みさ江副会長は「看護現場の実態を把握し、二二〇〇億円削減を止めるよ う厚労省として主張してほしい」と強調しました。

 (*)A(モニタリング及び処置等)は創傷処置、血圧測定、時間尿など九項目。B(患者の状況等)は寝返り、起き上がりなど七項目。Aが二点以上かつBが三点以上の患者を「看護必要度が高い」とし、一割以上いないと「7対1」が算定できない。

社会保障削減やめさせ看護の困難を打開しよう

窪倉みさ江副会長

 いま看護現場は、看護師が足りなくて大変なうえに、内外の医療環境の変化が激しく、やりがいが 持てなくなる状況もあります。これは看護師の困難であり、同時に患者の困難でもあります。安全・安心の医療や手厚い看護が受けられない、医療を受ける権利 が侵害され、同時に医療崩壊がすすんでいます。
 看護師増やせの運動は、医療・介護の再生、社会保障の大幅改善の運動と結びつかなければ、前進しません。看護の社会的価値、役割をもっと全面的に打ち出 し、地域医療を守る視点から、共同行動を大きくすることが重要です。新しい看護改善署名はすでに一九万筆を超えました。
 看護師をめざす若者は多い。でも学費が高い、受験が難しい、仕事がたいへんと聞き、あきらめる子も多い。ここ一〇年で、准看護師を含む養成数は減ってい ます。若者が希望を実現できるよう援助し、同時に看護がやりがいのある仕事だと思えるよう現場を改善することも必要です。働きやすくなれば辞めた看護師も 戻ります。
 七月一日の看護師受け入れ担当者会議では「励まし育てる」担当者の苦労や努力が生なましく報告されました。民医連だけでなく、全国の病院でも同じ事態が 起きています。国の本来の役割は、病院を競わせることではなく、制度を整備してささえること。手厚い看護配置や安全・安心の医療を保障するのは国の責任で す。
 そのために社会保障費削減を即刻止め、診療報酬を引き上げること。厳しい職場環境と看護師不足の悪循環を断ち切らなければなりません。
 全日本民医連は「民医連の看護調査(七月実施)」をもとに内外に向けて政策提言する予定です。

(民医連新聞 第1432号 2008年7月21日)