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民医連新聞

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9条は宝 私の発言 〈37〉 「世界は非暴力に向かっている 翻訳で生まれた確信

松井和夫さん(医師)
 1948年、大阪生まれ。保団連の平和担当で活躍。「反核医師の会」常任世話人。「市民オンブズマン和歌山」共同代表。

 翻訳・監訳にとりくんで「世界観が変わった」と言う松井医師。核戦争防止世界医師会議(IPPNW)の元会長・アシュフォード著『平和へのアクション101+2』の魅力とは?
(聞き手 小林裕子)

本の魅力で結ばれた人びと

 メリー・ウイン・アシュフォードさんとの出会いは、一九九八年のIPPNWメルボルン大会です。女性がミサイルを蹴飛ばしている絵を配って、楽しそうにスピーチし、印象的でした。いつか日本に呼びたいなと思いました。
 二〇〇〇年、大阪の「反核医師のつどい」でチャンスが来ました。講演は大成功、それからの付き合いで、ずいぶん励まされてきました。IPPNWの意見応 募も「英語は自信ない」と言うと、「たどたどしいから説得力があるの!」って。
 去年の春「本ができた」と送ってきました。読むと素晴らしい内容です。共通の友人である友野百枝さんと翻訳することにしたんです。ところが簡単ではな い。抱えきれなくて、友野さんが知人に「いっしょにやらない?」と声をかけました。その人が「これは良い」と、また知り合いに声をかけた。翻訳を通じて人 の輪が広がりました。
 日本にアシュフォードさんを招いての各地の出版記念講演会でも、そういうボランティアが積極的に協力してくれました。亀岡の女性は新聞社に全部電話し て、五社から取材を取りつけました。高校での平和教育講演もアレンジしました。「あんたは大変なことをやったんやで」と言ったら「へえ、そうなんです か」。こんな活動は初めての人ばかりです。
 その一人が「本が完成して終わりと思ったけど、実は平和運動の始まりだった」と。こういうセリフを聞くと嬉しいですよね。苦労の何十倍も得るものがあった。

世界の情報と熱意で

 日本版では、文中に約一〇点の日本のエピソードを付け加え、「広島・長崎」と「憲法九条」の項 を加えました。書くために調べると、実に、日本のあちこちでさまざまな人が平和運動をやっています。マスコミに出ないし、知らなかっただけで、世の中は変 化していると思いました。
 実は、アシュフォードさんも全部わかって書き始めたわけでなく、途中で「これ本当?」「詳しいことを教えて」と多数の人に聞いたのです。世界中にあるネットを使って。
 「予期した何倍もニュースが集まって、世界は平和に向かっていると実感した」と言っています。
 原著にある百数十枚の写真は、一枚を除き、世界中の人から無料で提供されました。再版では全部無料。みんなの熱意、人のつながりで作られた本なんです。

平和運動のバイブル

 僕の、憲法九条に対する見方も変わりました。「いまは軍隊・軍事力なしに紛争を解決できる新しい時代なんだ。だから九条は生かして広げるものなんだ」と積極面に気づいたのです。
 非暴力で紛争を解決する方法は確立され、世界では実行されつつあります。紛争の数も減っているし、独裁政権も平和的に倒されている。世界中で「戦争嫌 い」が増えています。悲しいかな、日本ではまだ「軍事力の放棄は理想主義だ」とか「攻められたらどうする」と言う人がいますけど。
 だから、平和運動は暗くならず自由に伸びのび楽しくやりましょう、と言いたい。たとえば、署名一筆でも話をわかってもらえたら意味がある。構えないで も、九条バッジで「それ何?」と話が始まったらいい。日常の中にできることは必ずあります。
 この本は、僕にとって平和運動のバイブルです。著者の意志を伝える適切な言葉は何か、一句一行の意味を深く読み、当事者のつもりで考えましたから。

(民医連新聞 第1432号 2008年7月21日)