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民医連新聞

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たらし回しじゃない 限界の中、奮闘する ER ―大阪・耳原総合病院―

 「救急車のたらい回し」「受け入れ拒否」…。いまテレビや新聞にこんな言葉が頻繁に登場します。しかし、医療現場で起こっている ことは、これ以上、救急車を受け入れられない、「受け入れ不能」という事態です。この問題を考えるため、救急搬入数が民医連の中でも屈指の多さである、耳 原総合病院のER(救急救命室)を取材しました。(佐久 功記者)

「地域の救急医療を守りたい」

増え続ける救急搬送

shinbun_1431_01 大阪府堺市、日本最大の古墳・仁徳天皇陵のほど近く、耳原総合病院は、特定医療法人同仁会のセンター病院として、人口八三万人の救急を担い、日々奮闘しています。
 同院の二〇〇七年の救急車受け入れ数は、四三三八件。二〇〇〇年と比べ、搬入数は約二・五倍になりました(グラフ)。
 市外からの救急受け入れも増えています。〇七年は一四%が市外からでした。二年目研修医の緑川大介医師は「この間、吐血でショックの人の受け入れ要請が ありました。救急隊は『到着まで三〇分かかる』と。どれだけ遠くから来るんだろう? と思いました」。
 ER担当看護師の水野洋美さんは「救急車は多い日で一五台。自力で来る患者さんもたくさんいます。最近は小児救急も輪番制で受けていますが、たいへんで す。子どもはじっとできないので、点滴や採血は三人がかりです。そうなると残りの一人でほかの患者さんを看護することになります。忙しい時は、食事はおろ か、トイレすら行けません」。
救急が増え続ける中、現場の負担も大きくなり、「受け入れ不能」という事態が広がっています。

救急撤退 ドミノ倒し現象

 問題の背景には、救急体制を維持できず、撤退を余儀なくされる病院が次つぎ出ている事情があります。
 大阪府の救急搬送は、二〇〇〇年の約三七万回から、〇七年には約四五万回まで増加しています。しかし二次救急告知病院の数は、〇〇年の三〇四病院から、 〇七年には二五八病院まで減少。結果、残りの病院に患者が集中。ささえきれず、さらに救急から撤退するという「ドミノ倒し現象」が起こっています。
 最近では、四月に市立松原病院が夜間救急を休止。六月には市立泉佐野病院も、二次救急告示を取り下げました。

“受け入れ不能”だった

 昨年一二月、富田林(とんだばやし)市の八〇代女性が三〇病院から受け入れを断られて、二時間 後に搬送先で死亡する痛ましい事例が起きました。同院は、断らざるを得なかった病院の一つでした。当時、三〇分の間に三件の搬送依頼があり、二件は受け入 れたものの入院患者の急変もあり、その事例には対応できませんでした。
 ふりかえり調査で明らかになったのは、一二月の搬送依頼四八〇件のうち、受け入れできたのが七割(三三九件)しかない現実でした。
 断った理由で多かったのは「ベッドが満床(四一件)」でした。そのほか「処置中のため」「専門外」が続いていました。
 そこで四月から、副院長や副総師長、事務次長、ソーシャルワーカー(SW)などでベッドコントロールチームを立ち上げました。毎朝、会議を行い、個室を空ける努力をしています。
 その結果、ベッド満床による他院転送も減ってきています。
 また現在、当直医は二・五人体制(当直二人+準夜帯に一人)ですが、救急増加に対応するため、当直を一人増やし、体制を厚くする検討を始めています。た だ医師数は変わらないため、当直の回数が増えます。厳しい状況ですが、「地域の救急医療を守る」という思いでとりくんでいます。

診療報酬引き上げを

 同院が努力しても、救急医療から撤退する病院があい次ぐ状況では、先が見えません。
 「救急部門は、単独で採算はとれない」と、穴井勉事務長は言います。「安全のために医師や看護師の当直を増やすことは、経営的な負荷だけでなく、職員へ の負担にもなります。診療報酬を適正に引き上げ、医師や看護師を増やせるような状況をつくらなくては」と、現場の思いを語りました。
 ところが厚労省は、〇八年の診療報酬改定で、入院時医学管理加算の算定要件を高くしました。救急から撤退せざるを得ない事態にさらに追い打ちをかける改悪です。
 取材を通して、スタッフが足りない中、少しでも多くの救急車を受け入れようと努力する医療機関の奮闘には限界があること、医療費削減をやめ、医療現場をささえるべきだと、つくづく感じました。

 取材に訪れた6月20日、ERには、医学生さんの実習と救急医療を取材しているテレビ局のカメラが入っていました。
午後5時過ぎ、小児救急の輪番担当日でもあり、ERには発熱などの子どもたちが続ぞくと訪れました。
近隣の夜診が終わった午後9時、救急搬送が立て続けに入りました。9時45分に中年男性が掻痒と倦怠感、10時20分に高齢の男性が3日前からの発熱と転 倒で救急搬送されました。頭部に出血跡があり、CTなど検査が行われました。
11時には「明日も仕事。でも眠れない」と、睡眠剤を多量に服用した青年。朦朧とした状態で搬入されました。息つく間もない11時40分、トイレでふらつき、転倒した高齢女性が。
その間も救急車以外で来院した患者さんの対応も続きました。


期待に応えるERを

ER責任者・田端志郎医師(副院長)

 私たちのERには、三つの理念があります。一つ目は「断らないER」。要請されたらとにかく診ます。しかし限界があるので、将来はER室を広げたり、医師の体制を厚くしたいと思っています。
 二つ目は「質の高いER」。ER専任医師を配置し、研修医の救急教育にもとりくんでいます。この研修の関心は高く、他県連や他病院から研修に来ています。
 三つ目は「地域に密着したER」。ERスタッフを中心に「ERの気になる患者さん訪問」をしています。ERを受診する患者さんは「気になる」人ばかりで す。老老介護、独居の高齢者さん、アルコール依存症など、カンファレンスで出し合って訪問します。病気の原因や問題点は何か、SWにもつなげます。まだ始 めたばかりですが、続けていきたいと思います。
 富田林市の事例では、受け入れ可能だったかを検討しました。結果、やはり対応できなかったという結論でした。心苦しいですが、「これ以上は医療事故につ ながる」という苦渋の決断をせざるを得ないことが多くなってきています。
 改善のために医師のシフトも調整し、私も多くの単位を、ERに入ることにしました。また救急救命士と懇談も行いました。「受け入れは限界」と伝えました が、救命士は「それでも耳原は受け入れてくれると信じている」と。その気持ちに少しでも応える努力を続けていくつもりです。

(民医連新聞 第1431号 2008年7月7日)