STOP! 「海外派兵恒久法」 ――イラク派兵違憲判決を力に 「日本は戦争しているに等しい」
政府は「自衛隊海外派兵恒久法」の制定を急ぎ、今秋の国会で成立させようとしています。衆院の三分の二以上で再可決という非常手段で成立した「新テロ特措 法」は、来年一年で期限切れ、イラク特措法も来年七月で期限が切れます。そこで、自衛隊の海外派兵をもっと自由化し、任務も大幅に増やして武器の使用制限 を緩めようとしているのです。
名古屋高等裁判所は四月一七日、自衛隊イラク派兵差し止め訴訟(※)でイラク・バグダッドを「戦闘地域」と認め、平和的生存権を肯定する判決を下しまし た。弁護士の川口創さんは、この判決が自衛隊を撤退させ、恒久法を阻止する大きな足がかりになると強調します。(聞き手 渋谷真樹記者)
川口 創(はじめ) 弁護士名古屋弁護士会所属。子どもたちが泣いているイラクの映像に衝撃を受け、ひとりの人間として許せないと思い「自衛隊イラク派兵差し止め訴訟」で弁護団の事務局長になることを決意 |
「イラク派兵は憲法違反!」 歴史的で画期的な判決
最高裁に準ずる高等裁判所の判断は極めて重要です。判決文はとてもわかりやすく、多くの市民に知らされていないイラク攻撃の事実を明らかにしています。
裁判官が、事実を歴史にとどめようとした判決だと思います。
違憲判決を産み出したイラクの実態
三人の裁判官が重い覚悟を決めて違憲判決を下した理由は、イラクの現状と自衛隊が「参戦」している実態が、もはや深刻な状況にあったからです。
判決文は「裁判所の判断」の冒頭に「当該派遣の違法性について」の項目をたて、大半をイラクの事実認定に割いています。
たとえば「ファルージャでの米軍の掃討作戦は、米軍がクラスター爆弾や国際的に使用が禁止されているナパーム弾、神経ガスなどの化学兵器を使用した」な ど、米軍の非人道的な攻撃があったことを指摘しています。また「イラク人の死者が二〇〇六年六月までに、六五万人を超えた」と被害を認め、首都バグダッド を「戦闘地域」と認定しました。
さらに航空自衛隊の空輸活動を分析し、多国籍軍の武力行使と一体化した行動は、政府の憲法解釈に当てはめても違憲であり、「自らも武力の行使を行ったと評価せざるを得ない」「憲法九条一項に反する」と断罪しました。
判決は「すでに日本は戦争をしている」とその事実を見抜き、しっかりと認定しています。
政府は国民に対して真実を隠し、今度も「恒久法」を通そうとするでしょうが、「支援」などという言葉にだまされてはいけません。私たちは「戦争してい る」という事実認識を政府につきつけ、憲法を守らせていかなければなりません。この点を何より強調したいと思います。
平和的生存権の「具体的権利性」を認めた
判決は、平和的生存権の具体的権利性を肯定した点でも極めて画期的です。
いま、全国で日米軍事再編がすすめられ、特に基地がある地域の被害は深刻です。基地建設を強行し、住民にガマンさせることは「戦争の準備行為への加担強 制」にあたり、「平和的生存権侵害」と主張できる可能性まで生まれました。さらに海外派兵の違憲性を争う裁判も門前払いされることなく、法廷でたたかう道 が開けたのです。
恒久法を食い止める大きな力に
この判決が二〇〇八年四月という時点で出されたことも大切です。
政府はこの夏に「恒久法」の法案をまとめ、秋の臨時国会に提出するつもりです。しかし判決に照らせば、「恒久法」が違憲であることは明白です。この判決を、「恒久法」を食い止めるために大いに活用しましょう。
判決がイラク派兵を「憲法九条一項に反する」としたことも重要です。
改憲派のねらいは、九条第二項を変えて自衛隊を軍にし、海外派兵することです。ということは、たとえ「明文改憲」をしても、武力行使をともなう海外派兵 は「違憲」となります。改憲派のあがきは、この判決によれば「無駄」ということになり、平和をめざす勢力には有利です。
9条守り活かそう
国際社会で日本が生きる道は、自衛隊を海外に送ることではなく、憲法九条を生かして平和に貢献することではないでしょうか。
九条を守るとともに活かすことが大切です。そのためにも、自衛隊のイラクからの完全撤兵を強く求めていかねばなりません。それは、私たちの権利の行使にほかなりません。
「いい判決が出たね、よかったね」で終えてはなりません。いま、私たち弁護団は、学習の輪をひろげようと全国で講演活動をしています。民医連のみなさんと同じく、みな若い弁護士ですので気軽に講師要請してください。
※自衛隊イラク派兵差し止め訴訟(名古屋)…イラクに自衛隊 を派兵することは「武力の行使」と「交戦権の行使」を否定した憲法九条に違反し、国際法違反の侵略行為である、と派兵の差し止めを求めて二〇〇四年二月二 三日、第一次提訴。二月二九日、訴訟の会設立。原告団は三二〇〇人以上。四年間で七次の提訴。二〇〇八年四月一七日、名古屋高裁は「自衛隊の活動、特に航 空自衛隊がイラクで現在行っている米兵等の輸送活動は、他国の武力行使と一体化したものであり、イラク特措法二条二項、同三項、かつ憲法九条一項に違反す る」と判決を言い渡した。
「恒久法」の危険性とねらいは? |
「自衛隊の海外派兵を、いちいち法律をつくらずに実行したい」と自民党が検討してきたのが「国際平和協力法案」。その中身は… 必要と認めれば海外派兵国連決議・国連の関係機関の要請があった場合や、他国(アメリカなど)の要請、日本政府が「必要」と認めれば派兵できます。 武力掃討作戦に参加安全確保活動…占領に抵抗する人びとを武力で抑えこむ作戦。「テロを防ぐ」という理由で無差別に家宅捜索し、民間人を拘束し、殺傷する。 多国籍軍を守る活動 警護活動…米軍など他国や国際部隊の「人」「物」「施設」を警護する活動。米軍を守るために、自衛隊が民衆に銃を向けることも可能。 武器による殺人も大幅拡大「武器を持たない大勢の人が集合して暴行脅迫の危険があると認めた場合」、「武器を所持した者による暴行脅迫の危険がある場合」、「警護活動中、暴行・侵害を受ける危険がある場合」には武器を使用でき、その責任は問われません。 アメリカ政府が強く要求 「恒久法」をもっとも求めているのは、アメリカ政府です。日本が米軍とともに世界中で戦争できる体制をつくりたいのです。アーミテージ元国務長官らがまとめた第二次報告(07年2月)では、「短い予告で配備できる柔軟なパートナー」を日本に強く要求しています。 |
(民医連新聞 第1429号 2008年6月2日)