4月スタート 特定健診・特定保健指導 実践しながら制度を変えよう
大きな問題をはらみながら四月一日、特定健診・特定保健指導が始まりました。後期高齢者医療制度とならんで「高齢者の医療の確保に関する法律」に もとづき、医療費の伸びを抑制することが目的です。健診が医療保険者の義務になり、受診機会が拡大する可能性もある一方、項目が「メタボ」に限定され、料 金の引き下げや営利企業の参入など、住民の健康にとっても医療機関にとっても、影響が大。実施体制を整え、正しい視点の職場・地域の健康づくりをすすめ、 受診機会を閉ざさず病気を見のがさない制度へ変更する運動が求められています。
後期高齢者医療制度と連動
東京民医連は、特定保健指導者の養成講座(四回連続・二~五月)を開催中です。「スタッフ体制がつくれない」「中小病院や診療所では難しい」という悩みを受け、どの事業所でも経験を生かし、保健指導する自信をつけることが目的です。
担当者で東京社医研センターの門田裕志さんは「これからが勝負。民医連の強みを生かそう」と話します。特定健診・特定保健指導がめざすのは、二〇一二年 の実績数です。加入者に対する健診数が市町村国保で六五%、単一健保・共済で八〇%、総合健保・政管・国保組合で七〇%を達成すること。発見したメタボの 四五%を指導すること。一〇%を減らすこと。この三点が達成できないと、後期高齢者医療制度への拠出金が増やされてしまいます。
「保険者にとって大きな課題で、医療機関からの働きかけが重要。〇八年に契約できなくても、〇九年には契約するなどし、民医連らしい健康づくりを提案してほしい」。
モデル事業から
東京民医連は、東京土建国保組合とタイアップし、〇七年六月から特定保健指導のモデル事業を始めました。加盟事業所で健診を受けた四万人から、BMIが24以上の一三〇〇人を抽出、参加者三〇人を集めました(ほか二社で各三〇人が実施)。
実施してわかったことは、参加者を集めることの難しさ。かなりの働きかけが必要でした。二つ目は、初回の面接の難しさ。面談時間三〇分の予定が、実際に は四五~八五分もかかり、生活改善のカギを聞き出すにはスキルが必要でした。たとえば初回の面接で「毎日、お茶会をしている」と話した主婦が「実は、お茶 会でケーキを三つ食べている」と打ち明けたのは三カ月後、ということがありました。三つ目は、考えていた以上に肉体労働者が多く、仕事が長時間で帰宅が遅 いことです。
この経験から、特定保健指導について、(1)受診者が参加しやすい場所の確保、(2)学習教材などの資料つくり、(3)指導担当者のスキルアップ、 (4)生活や健診のことが気軽に話せる関係つくりと仲間づくり、(5)労働者に対する保健指導の重視、という方針を立てました。指導者養成講座の内容にも 反映させて、「労働と健康」の最新の知見、「コーチング」を学び合うことになりました。
「労働者は、経験をもとに生活を変えます。援助者は教師ではなく、仲間でなくてはならない。たとえば夜中一時~五時までぐっすり眠れる方が、運動や栄養 より大切な場合がある。これは民医連の医師たちの研究結果です。それが理解できるプログラムにした」と、門田さん。
地域・職場の「健康づくり」
モデル事業から「家族や小集団」でとりくむと、改善効果が高いこともわかりました。孤独では長 続きしないのです。家族といっしょに考えると「揚げ物を減らす」「料理は余らないように作る」など、工夫ができます。職場でいっしょに昼食を取る仲間では 「チラシ寿司を分けて食べる」「おやつを止める」などのアイデアが出てきます。周囲の人の励ましや協力を得られた人・グループが改善していました。
「対象者を集める」苦労がなかった支部がありました。そこは芝病院で五年間健診し、必ず結果を説明して直接、本人に渡していました。
職場や地域の「健康づくり」と「仲間つくり」、支援者と生活まで話し合える関係と共感。「民医連が大切にしてきたもの」です。
働くものと仲間の健康の視点で
二〇一二年に目標値を達成できそうな保険者は、大企業の健保組合くらいです。自前の医療機関を 持ち、健診機関を確保しているからです。すると後期高齢者医療制度への拠出を節約できます。大企業が有利、市町村国保や中小企業の加入する健康保険は不 利。また、中小企業の被用者保険の被扶養者や国保組合の被保険者は、受診できる契約医療機関がない、健診費用の請求の流れが未定など、受診機会が奪われか ねない事態も起きてきます。
さらに無保険の人は、健診からはじき出されます。様ざまな問題点のある新制度。「労働組合と話し合い、地域の中小事業所に働きかけ、受診を促すととも に、制度自体を変えなくては」。門田さんは「働くものの健康の視点」を強調しました。
特定保健指導者・養成講座
東京民医連
講座の第二回目が三月にありました。はじめに「行動変容を促す特定保健指導とは?」の講義。講師の篠塚雅也医師(大泉生協病院)は、もと生涯教育開発財団認定コーチです。
内容はコーチング。「人から言われたことはやりたくないが、自分で言ったことは、やる確率が高くなる。人に話を聴いてもらうことで自己効力感が高まる。 信頼する人からの働きかけは行動を変えるきっかけになる」「人の長所を探す、聞き上手になろう」「良い質問とは、オープンで・未来形・肯定形・思索を促 す」など、ポイントを説明し、面接を実演しました。
ワークショップは「初回面接」 。受診者役に一人三分で質問、目標と指導プログラムを作成しました。受診者のプロフィールは実例からアレンジしたものです。「どんな質問をすれば生活を変 えるキーポイントが聞き出せるか」、受講者たちは学んだコーチング手法を駆使していました(ほか三回は以下)。
第一回 服部真医師の講義+WS…検診結果からメタボを発見
第三回 莇也寸志医師の講義+WS
第四回 運動指導士、栄養指導の実際/実技
※講義では、労働・生活と健康の視点を学ぶ
特定健診・特定保健指導とは
医療保険者(区市町村国保・健保組合など)が40~74歳の加入者(被保険者・被扶養者)を対象(義務)。特定健康診査で、メタボリックシンドローム (内臓脂肪型肥満)を早期発見し、特定保健指導(生活習慣病の改善)を実施。特定健診は、全対象者が受診する「基本的な健診項目」と医師の判断による「詳 細な健診項目」がある。
特定健診では状態に応じて、「積極的支援」「動機づけ支援」「情報提供」を行う。しかし加齢などの遺伝要因、病原体・事故・ストレスなどの外部環境要因、貧困、労働環境の軽視が懸念される。
保険者は、実施を医療機関などに委託することが可能。市区町村は、国保加入者の健診実施の義務を負う。2013年度から、保険者には達成状況に応じて、 後期高齢者支援金の加算・減算が行われる。2015年度に2008年度と比較して、生活習慣病有病者・予備軍を25%減少させることが政策目標として掲げ られている。
「健診制度」後退させない
自治体などに要求しよう
…全日本民医連の方針から
◆健診や各種がん検診を後退させないこと
◆後期高齢者が今まで通り健診が受けられ、通院中の人を除外しないこと
◆無保険者が健診を受けられる保障を
◆特定健診費用の自己負担を無料に
◆被用者保険の被扶養者の特定健診・特定保健指導の受診機会を狭めないこと
(民医連新聞 第1425号 2008年4月7日)