第38回総会への理事会報告 2008年3月8日 長瀬文雄事務局長 “いのちの平等”めざす 理念の実践いまこそ
全体会、分散会の論点に関してと、出された質問、提案に対しての理事会の考えをのべます。
室料差額徴収の問題率直な意見交換を
「室料差額徴収問題」についてです。全体会と分散会で当該法人の代議員から、「今後も民医連に 結集し、民医連運動を推進していく」との表明がありました。これを大いに歓迎するものです。考え方や建設計画、経営計画など必要な情報提供を受け、同じ仲 間として、率直な意見交換、討論を行いたいと思います。
同時に、全体会と分散会で発言した代議員の多くは、「新病院で室料差額徴収を行う」方針に対し、たいへん心配し、心を痛めています。
個室を増やして療養環境を改善したい、という要求は当然です。全国の事業所がリニューアルや病院新築に際し、個室を増やすよう努力し、環境改善に創意工 夫しています。そのことと室料差額徴収とは別の問題です。何より療養環境改善には診療報酬引き上げが必要です。ここでも「困難はたたかいと連帯の力で乗り 越える」ことが重要です。もし、室料差額徴収に踏み切れば、診療報酬が更に引き下げられたら、もっと患者に「負担」をお願いすることになるのではないで しょうか。また、「病室の活用は病状で決める」という原則から外れ、診療現場に新たな混乱を招きかねません。
民医連運動を推進する力は、職員の意欲の高さと共同組織の存在、地域の信頼です。無産者診療所以来、一貫してきたものは「いのちの平等」をめざす確かな 理念と実践です。それは職員や共同組織の誇りであり、日本の医療の良心と言っても過言ではありません。ある民間病院の院長が「お宅を信頼するのは、どんな 人も分け隔てなく医療を行う医師、看護師の献身性と、差額徴収をしないことだ」と明言したそうです。
もう一度原点に
室料差額徴収しないことは私たちのシンボルであり、「いのちがなによりも大切」という実践その ものです。全国的な連帯と団結の力で実践しようと、幾度となく総会、評議員会で確認してきました。二〇〇二年の第三五回総会で決定した「医療・福祉宣言」 の中でも確認しています。「時代が変わった、組合員の要求だから」という理由でかたづけることのできない「重み」を持つものです。
当該法人にとって、総代会が意志決定の場であることは当然です。しかし、私たちは民医連に加盟し、自らの意志で方針を決定し、団結の力で、運動を推進し てきました。ぜひ、全国の仲間の率直な意見を持ち帰って、もう一度原点に立ち返って議論していただきたいと思います。職員や仲間の中であらためて全国の経 験に学び、医療から遠ざけられている人たちに心を寄せ、「民医連とは何か」を含め率直な議論を行うことを願います。
無料低額診療に挑戦を
同時にこれは、一法人だけの問題ではありません。各加盟事業所が自らの問題として、あらためて 自らの立ち位置はどこにあるのか、軸足をどこに置くのかを振り返る機会にしていただきたいと思います。そのことが「綱領改定草案」や「再生プラン」案の議 論そのものではないでしょうか。
綱領改定草案で「もっとも困難な人びとの目線に立って情勢をとらえ、現状に甘んぜず、変革していこう」と理事会が提起した「心」はそこにあります。第二 種社会福祉事業である「無料低額診療制度」へ挑戦することは、その実践課題です。
新「綱領」へ提案を
綱領改定草案に関して質問、意見が出されています。全体会で「民医連の名称を介護を含め変更す る議論はないか」との質問が出されました。今日、民医連は、実践的に「医療から介護、健康づくり、まちづくりへ」事業と運動を大きく広げてきました。「民 医連」の呼称は市民権を得ており、国際的呼称も「MIN―IREN」と規約に明示しています。しかし、議論を避ける必要はありません。
綱領改定草案に「医療生協組合員、友の会などの記載はどうか」との意見が出されています。この表現は、すでに「医療・福祉宣言」の中に明記されているも のです。無産者診療所の歴史の記述、用語の整理についても意見が出されています。今総会を出発点に、多くの仲間が討議に参加し、団結の旗印となる、より良 い綱領をつくり上げていきたいと思います。提案を歓迎します。案を補強する形で解説文書を「民医連医療」誌に掲載する予定です。
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「再生プラン」案について、専門家の意見なども聞き更に深めたいと思います。歯科が出てこないとの意見が出ました。今後チームをつくり、歯科の再生プラン案を作成したいと考えます。
分散会で出された意見、「診療報酬は四回連続マイナス改定であり、見出しを変え内容を補強すること」「介護ウエーブを提起してほしい」「ハンセン病のと りくみ」「外国人労働者の医療」「精神科医療」「ジェネリック問題」などの補強、事前に出されている「子どもをめぐる情勢」「小児科」「産婦人科」分野の 活動の補強は第三八期の理事会で行います。また「介護分野の会費基準の見直し」についても次期理事会で取り扱います。
新しい歴史へ種まこう
理事会の総括報告 (長瀬事務局長)
一日目の本会議で二八人、分散会で八二四人、三日目一一人、合計八六三人が発言しました。第三八回総会方針案をはじめ、綱領改定草案、再生プラン案は、各地の豊かな実践と積極的な発言で深まりました。
討論では、絶対的貧困の拡大と急速な医療供給体制の崩壊、介護現場の厳しい実態がリアルに報告されました。その要因は明らかに「構造改革」路線です。
私たちは地域や医療・介護現場から、鋭く実態を告発してきました。医師、看護師自らが立ち上がり、運動を起こしてきました。それが連日のように報道されています。沖縄では年間二三回も取りあげられました。
二年前と比べ、私たちの運動で世論を大きく変えてきたことが一つの特徴です。もう一つは、従来の枠を越えて連携や共同が広がったことです。本総会に日本看護協会から連帯のメッセージが寄せられたこともその一つです。
「学習」「地域に出る」
いま本当に困難な人は、病院や診療所、施設に来ることができません。患者全体も二〇〇一年以来、減少傾向です。もっと地域に出かけ、人権のアンテナの感度を高め、困難な人びととの「垣根」を低くすることが重要です。
経営再生中の北海道勤医協は、友の会と共同して「医療費が心配で病院にかかれない方はご相談を」のステッカーを三〇〇〇枚、地域に貼り大きな評判となっ ています。経営改善の力は、職員と共同組織が情報と目標を共有し、成長することから生まれます。困難を乗り越えるキーワードは「学習」と「地域に出る」。 辻井喬さんが記念講演で述べた「理性と共感する力の統一」にも通じます。
各地で受療権を守る活動がとりくまれ、その中で職員の育成が意識的に追求されています。
「介護ウエーブ」の運動を大いに広げましょう。
転換へ大きく舵を
診療報酬改定を容認し、対応のみに走ることは危険です。今回で四回連続マイナス改定です。東京勤医会は四回で累計三〇億円の収入減になったそうです。
日本中の医療機関、介護施設が困難に陥っています。「再生プラン」の方向へ、転換する流れをつくり出しましょう。医師や看護師、介護職が自信と誇りを 持って働き続けられるよう奮闘しましょう。医師分野では、中低学年で結びついた奨学生が、民医連への共感を高め、後期研修にすすんでいます。医学生はじめ 医系学生の中での奨学生活動を強めましょう。
困難にぶれず
経営再建中の徳島、川崎の前進に確信をもち、引き続き支援をすすめます。七月には、栃木民医連が独立し、四六番目の県連が誕生する運びです。一昨年結成した宮崎民医連から、小さくても光輝く活動が報告されました。
後期高齢者医療制度撤回は待ったなしです。私たちと国民との共同運動が大きな役割を担っています。全力をあげ追い込みましょう。
最後に、共同組織連絡会の戸崎光明さんの発言を紹介します。「歴史的な総会だ。再生プランは日本の再生プランというべきもの。民医連は種をまく人たち だ」。どんな困難があってもぶれず、仲間を大切に奮闘することを呼びかけ、まとめとします。
9条で経済も発展
辻井喬(たかし)さんが記念講演
辻井喬さんは経済人であり、作家・教育者として「憲法、平和、教育への思い」を語りました。
辻井さんは「日本は平和だから経済が成り立っている」と強調。日本の食糧自給率は四〇%程度しかなく、マラッカ海峡を船が通れなくなれば、たちまち国民 は飢えに苦しむ。企業も原材料となる鉄鉱石や加工に使うエネルギーをほとんど輸入に頼っているので、戦争すれば経済活動ができなくなるのは必至、と説明し ました。
また世阿弥の『花伝書』の芸術性にふれ、「日本は軍隊をもつことより、芸術の方面の方がはるかに国際貢献できる」とのべました。日本政府が「お金を出し ているから常任理事国になりたい」というのは恥、「憲法九条を持つ国として平和に貢献できる」となぜ言わないのか、と批判しました。
また、考えるべき点として「議論に勝っても相手が敵意を抱いては勝ったことにならない。議論と生活感情とが離れてはいけない。理論と感情がバラバラで構わないという態度が、理論を弱くする」と指摘しました。
(民医連新聞 第1424号 2008年3月24日)