記者の駆け歩きレポート(20) 石川民主医療機関連合会 医療崩壊の真の原因 市民に語り続ける斉藤医師
日本中を飛び回り医師不足と医療崩壊を訴え続ける、埼玉・済生会栗橋病院副院長の本田宏医師。石川にも「第二の本田先生」がいる との情報を聞き、会いに行きました。その人は、城北病院・外科部長の斉藤典才(のりとし)医師です。一年前から変身し、学習会や集会で「医療問題の真実を 知ってほしい」と熱く語っています。(川村淳二記者)
石川にも第二の本田先生
二月一六日、石川県立音楽堂で開かれた金沢北健康友の会「新春フェスティバル」で講演会がありました。
「後期高齢者医療制度は本当にひどい制度です。七五歳を境に体が違っちゃうんですかね。おかしいと思いませんか」と、斉藤医師は語りかけました。穏やかな口調の中に熱い怒りが感じられます。
保険料はいずれ上がり続け、受けられる医療は制限されていく。制度を具体的に説明し、導入の背景、医療崩壊の原因へ迫ります。
ほかの先進諸国に比べ、総医療費は低いのに自己負担が高い日本。国や企業が医療にお金を出さない理由は…。データを示しながら、大企業減税やムダな公共 事業にお金をかけ、社会保障にお金をかけない国の姿勢を暴きました。
参加者は「外国の例がいろいろ出されたけど、日本が特別悪いね」「だんだん日本がシッコの映画に似てきて、背筋が寒くなる」と、納得していました。
「医師数の抑制も後期高齢者医療制度の導入も、社会保障に対する責任を小さくしたいという、国の姿勢が原因です。そうした政治や経済のあり方が医療崩壊を招いていることに、怒ってもらいたかった」という斉藤医師。
講演で目からウロコ
斉藤医師は、〇六年七月の医師委員長会議で聴いた、本田宏医師の講演にショックを受けました。
業務に追われ、忙しい原因を考える余裕もなく、「こんなに労働が厳しいのは、自分の能力の問題」と思っていたそうです。「忙しいのは絶対的医師不足をつくった政府の失策」との講演を聞き、目からウロコが落ちました。
書籍や新聞記事を読みあさり、勉強をはじめました。妻から「新聞を切り抜いたら医師が増えるの」と言われつつ、資料を集めました。激務をこなしながら、 「病院勤務医のささやき~医師不足を考える」というブログも立ち上げ、スライドをつくり、一年ほど前からいろいろな集まりで講師活動をはじめました。
〇七年九月には、保険医協会の部員として奔走。金沢市医師会主催の「第二〇回病診連携のつどい」で、本田宏医師の講演会にこぎつけました。
ブログの内容も医師不足問題から、後期高齢者医療制度や診療報酬の改定問題などに広がっています。
「医師不足のことを調べていったら、政治とか経済の問題に突き当たりました。自分でも、こうした活動をするようになったことが不思議なくらいですか ら…。突然変異みたいなものでしょうか。医師になって一七年ですが、自分の技術習得もすすみ、こういう勉強にも時間が割けるようになったのかもしれませ ん。忙しさは増しましたが、苦になりません」と斉藤医師は言います。
正しい情報を市民に
ある町内会で後期高齢者医療制度の説明をした時のことです。参加者から「病院で二千円かかったら、二万円があんたら医師の懐に入るんだろう。医師や病院が儲けすぎて、国の医療制度がおかしくなったんと違うか」と、言われました。
「話には聞いていましたが、市民にはそんなイメージがあるのかと、その時はじめて体感しました」と斉藤医師。医療のしくみや医療現場の実態がよく知られ ていないのです。だから誤った市民の感覚と国の政策が合致してしまう。本当は医療機関と市民が協力して政策を変更させないといけないのに、市民と医療機関 が対立する構図になっている、という実感でした。
「真実を知らせて多くの人が持っている誤解を早く解かないと」。これまでは友の会や医学生など、医療関係者を中心に話しに行っていました。これからは、 保険医協会で市民講座などを開いて、もっと多く、いろんな人に訴えたいと考えています。
「現場の実態を伝え、今の医療問題を市民に正しく伝える医師が各県・各地域に生まれたら、と思います。医療改悪が続いているので、それもできるだけ早い 時期がいいですね」。斉藤医師はドクターウエーブの広がりを展望します。
斉藤医師のブログは
http://www.jouhoku.jp/column/index.htm
(民医連新聞 第1423号 2008年3月3日)