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民医連新聞

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第5回老年医学セミナー 認知症の「早期発見」 「バリデーション」学ぶ

 全日本民医連・高齢者医療委員会は「第五回老年医学セミナー」を東京で開き、約六〇人が参加しました(主催・保健医療研究所)。 講演は「タッチパネルを用いた認知症の早期発見検診のとりくみ」を鳥取大学教授の浦上克哉さんが、「バリデーションへの誘い」を介護老健施設くろさき苑 (福岡民医連)の宮川昇さんが行いました。ともに認知症の最新の診断と関わり方について、実践的な内容でした。

よい環境とケア
  「予防教室」が有効

 高齢者が「一番なりたくない病気」にあげる認知症。浦上教授は、その早期診断マーカーの研究や検査法の開発にとりくんでいます。「研究の成果についてダイレクトに話すのは初めて」という最新情報いっぱいの講演でした。
 「認知症は六五歳以上の一〇人に一人、アルツハイマー型は二〇人に一人」といわれます。しかし早期発見し、良い環境で良いケア・治療をすれば、進行を遅 らせることができる時代。検診が大事です。浦上教授が提唱するのは、コンピュータを使う「タッチパネル式セルフチェック」です。
 コンピュータ音声の質問に、パネルにふれて回答します。質問は言葉や日時、立方体の識別の五問で、所要時間は五分ほど。感度九六%、特異度九七%と信頼 性が高く、人が質問する方法に比べ不快感やストレスが少なく、簡単にできることが利点です。
 一五点満点で、一四点以上が「正常」、一三点は「境界域」、一二点以下は「疑いあり」と判定します。このシステムは鳥取大学が知的財産権を所有し、事業化成功の第一号です(日本光電が発売・定価六四万円)。
 これを住民検診に使用した鳥取県琴浦町では、五五八人の受診者から、九二人(一六・五%)の軽度認知症を発見し、認知症予防教室を週一回、三カ月間実 施。その参加者三八人のうち二六人(六八%)に改善が見られました。
 また、浦上教授が一般内科の患者を対象にこの検査を実施したところ、一八人中七人(約四割)に認知症が見つかりました。こうした事例から、浦上教授は 「一見正常にみえる高齢者の中から認知症を早期発見し、適切な予防教室を実施することは重要。予防教室では運動と学習、指先を使い、記憶の悪い人も楽しめ るプログラムが適切」と述べました。

問題行動には理由
  “共感”を大切に接する

 宮川昇さんは、バリデーションの研修を受け、自施設で実践するほか、大牟田市が二〇〇二年から始めた地域認知症ケアコミュニティ推進事業のコーディネータとして活動しています。
 講演は、バリデーションの意味や実践など、入門的な内容でした。
 バリデーションとは、スエーデンのナオミ・フェールさんが開発した、アルツハイマー型認知症の高齢者とのコミュニケーション法で、世界七〇〇〇以上の施 設で採用されています。患者の感情や行動を共感と尊厳をもって受け入れることが基本です。
 宮川さんは、患者が興奮・幻覚・繰り返し動作の中にいるとき、「どうしてる?」と参加者に質問。「認知症の女性」に扮して、「みち子はどこへ行ったの。 みち子、みち子」と泣き叫びながら客席へ。静岡の参加者が「みち子さんて誰なの? いっしょに探しましょう」となだめました。この患者は元看護婦で、娘の みち子さんを保育園に預けて働いていたある日、みち子さんが行方不明に…。「自分は良い母でなかった」と思い続けていたという設定です。
 こんなとき「みち子さんは家にいるでしょ」「明日探そう」「落ち着いてコーヒーでも飲んで」と気を逸らせたり、現実を言いがち。しかし、宮川さんは「問 題行動には必ず理由があるので、患者が感じている事実を否定せず、同じ気分になって話す。患者に『なぜ?』と質問してはいけない。ウソをついてもいけな い。患者は心の底では、理由もウソも分かっているから」と説明し、「一四の言語的・非言語的テクニック」「四つの解決のステージ」を紹介。バリデーション の一番の基本、重要なことは「共感」と、まとめました。

 参加者から、二人の講師に対して「認知症の早期発見・予防にむけ自治体を動かすには?」などの質問が出ました。「自治体の職員の中にも必ず、やる気のあ る人がいる。発信を続けて、横のつながりをつくっていくことです」と浦上さん。宮川さんが活動する大牟田市でも「有志が手をつなぎ、とりくみが広がった」 と答えました。

(民医連新聞 第1421号 2008年2月4日)