国保短期証 「有効たった1日」 「100歳の人にも」 これでは命守れない
山梨民医連の調査・訪問活動から
国民健康保険制度が変質しています。受診できず、死亡した人が少なくとも29 人います(全日本民医連調査 05年1月~06年12月)。国保料(税)が高くて払えず滞納、保険証が取り上げられた世帯が34万世帯にのぼります。「社 会保障」の性格を失いつつある国保。その実態を告発し、制度改善を求める運動が重要です。短期保険証での受診者数を07年5月から調査し、訪問活動も始め た山梨民医連を取材しました。(板東由起記者)
山梨民医連の病院や診療所に短期証を持って受診する患者さんは、毎月三〇〇人以上います。全体の外来患者さんの一・三%です。
カウントを始めた理由は、県連の総会で職員が「短期証や資格書で受診する患者さんが増えた気がする」と発言したことでした。調査してみると、考えていた以上に困難を抱えている人が多くいました。
在宅酸素療法や人工透析、糖尿病でインシュリン治療をしている人、一〇〇歳の人も短期証なのです。毎月受診しなければ、命があぶない患者さんです。保険 証を取り上げられ、乳幼児医療費助成制度が利用できない赤ちゃん、有効期限がたった一日の人もいました。
「なぜ、短期証や資格書になってしまったのか?」。次に、この背景を調査し、その人の抱える問題を解決しようと昨年一二月、県連は訪問活動を呼びかけました。
SWと社保委員が旗振り
いち早く訪問に出た石和(いさわ)共立病院。社保委員会でとりくんでいた「気になる患者さん訪問」の中で、短期証の人を重点にしました。SWと委員のチームが、県連のとりくみの旗振り役になっています。
SWの生松(はいまつ)みち子さんは言います。「最近訪問した七件だけでも、驚くような実態でした」 。共通する事情は「今日を生きるのが精一杯。保険料が高すぎて払えないから滞納している」ことでした。
C型肝炎のAさん(七〇代)は、「治療に専念したいが、食べるため、保険料を払うためには日雇い仕事を休むわけにはいかない」。Aさんは毎月、受診前に 国保課に行き、二〇〇〇円の保険料を納めて一カ月の短期証をもらっていました。
Bさん(五〇代)は、年に六回短期証が発行されていました。六回の交付日を見ると、納付相談に行った日。有効期限はその月末です。しかも、次の短期証の 開始日までには数週間空白があります。「お金の工面ができたら短期証をもらって受診している」と。短期証がない間は受診を我慢するか、自費で受診するしか ありません。
Bさんは、経営していた建設会社が倒産。その後、心筋梗塞になりました。「国保課は相談に乗ってくれない」 。あきらめていました。
生松さんは「これでは安心して治療に専念できません」。一部負担金の減免制度を知らせたり、生活保護の申請をすすめました。
Cさん(四〇代)が脳梗塞で倒れたとき、家計をささえていた長女が失業。一カ月の短期証をもらう保険料すら払えませんでした。Aさんは「将来が不安でた まらない」といいます。生活保護受給が決まり、少し安心しました。
七歳のDちゃんは、発達障害で週一回リハビリに通院していました。「短期証が恥ずかしい」という母に、小児科の宇藤千枝子医師は「特別児童扶養手当」が あることを知らせました。受給ができ、母は「四人家族で国保料は月四万円以上。とても大変でした。でも、これで医療費は安心できる」と喜びました。
受療権守る運動を
社保委員会は訪問で分かったことを職員に知らせています。職員も医局会や職場会議で、毎月の受診ケースを報告し合います。短期証や入院費について学習会も開きました。
職員の間で「外来では分からない生活背景が訪問して分かる」「社会保障の切り捨ては許せない。自己責任じゃない!」「金の切れ目がいのちの切れ目なんて 悔しい」「滞納者には健康診断の通知が届かないと初めて知った」「私たちが使いやすい制度に変えよう」という元気な声があがっています。
生松さんは「病人や障害者に短期証や資格書を発行することは『いじめ』です。すぐに解決できない問題もありますが、SWの力を発揮したい。あきらめず地域に出て相談活動を続けます」と意気込みます。
副事務長の千葉里美さんも「この調査を自治体交渉や受療権を守る運動などに結びつけたい」と話しました。
(民医連新聞 第1421号 2008年2月4日)