医療事故を取り扱う 第三者機関求め なくそう医療事故 たかめよう患者の権利
1・19シンポ
全日本民医連は一月一九日、「医療事故を取り扱う第三者機関の設立をめざす1・19シンポジウム」を、東京都内で開催しました。医療関係者や弁護士、患者・家族など二〇〇人以上が集まり、実効性のある被害者救済・再発防止に何が必要か議論しました。(川村淳二記者)
第三者機関の設立を求め、はじめてのシンポジウムを開催したのが二〇〇四年六月。それ以降、全日本 民医連は、イギリスやオーストラリアの第三者機関を視察し、あり方を検討してきました。厚労省には要望書を三回提出しています。いま、第三者機関設立の議 論が各界で急速にすすみ、厚労省と自民党が、医療事故調査委員会(仮称)の試案をあい次いで発表。法案を提出する動きも出ています。
国民的議論おこそう
シンポジウムにあたり、全日本民医連の肥田泰会長は、「医療事故の議論に欠けているのは、一つは患者の権利を定めた法律がないこと、二つめは被害者の補償制度がないこと、そして、三つめが死因究明のシステムがないこと」とのべました。
小西恭司副会長が基調報告し、厚労省や自民党案の問題点を整理し、民医連のこれまでのとりくみと要望書のポイント(右)を説明。「長期的な将来展望を見すえ、当面何が必要か議論しよう」と呼びかけました。
医療者、被害者、航空事故の専門家、医療メディエーターの立場から、シンポジストが報告しました(左に発言趣旨)。
第三者機関のあり方については拙速な結論はさけ、国民的な議論を続けること、患者・家族との信頼関係を築く具体策の検討が課題となっています。
全日本民医連の要望書 ポイント (1)医療機関・患者双方から相談を受けつける窓口の確立 |
厚労省・自民党案では隠蔽・萎縮医療に拍車
上 昌広(かみ まさひろ)さん
東京大学医科学研究所・准教授 現場からの医療改革推進協議会・医療事故ワーキンググループ代表
「事故の届け出」が民事・刑事処分に連動する厚労省や自民党の案では、事故の隠蔽、萎縮医療に拍車をかけます。
医療紛争の解決は、情報公開と話し合いを積み重ねるしかなく、調査権と処分権を一つの機関がもって、上から強権的にすすめても解決できません。
私たちの対案は、患者・家族が主体的に解決するしくみです。相談窓口、医療メディエーター、ADR機関の設置、剖検体制強化に予算をつけ、地域で専門家 のネットワークをつくります。そこが患者・家族に徹底した情報公開と、解決策を提案し、サポートします。
航空鉄道事故調査でも犯罪捜査の分離が課題
渡利 邦宏(わたり くにひろ)さん
日本ヒューマンファクター研究所 品質保証研究室・室長
航空鉄道事故調査委員会設置法や国際民間航空条約では、事故調査の目的は「事故の防止と被害の軽減」です。罪や責任を科すことではなく、調査で述べられた意見や記録を、ほかに利用することを制限しています。
現場では、警察の捜査と重複することも多く、覚え書きを交わして役割分担していますが、はじめから被疑者扱いするような捜査や、調査結果を刑事処分の証 拠に利用されると、関係者から正確な証言が得られないことが問題となっています。
委員会の権限を明確にし、事故調査と刑事捜査を完全に分離すること、調査での証言者を保護することが必要です。
被害者が参加した院内ADRの経験
平柳 利明(ひらやなぎ としあき)さん
東京女子医大病院心臓手術事故の被害者遺族、歯科医師
私がとりくんだ東京女子医科大学病院の院内ADRの経験では、被害者が事故調査委員会自体を信頼せず、対話がすすまないケースがありました。それで、思い切って被害者も委員会に参加してもらいました。
調査報告書は、被害者が望む結果が出るとは限りませんので、過程が見えることが大切です。被害者が「納得」するのは簡単ではなく、前にすすむために「区切り」をつけるのです。
患者・家族から医療者側が信頼されれば、自然に警察も介入しづらくなります。その努力をまず医療界がすべきで、「介入はマイナス」とだけ強調しても、賛同されないと思います。
信頼の再構築は医療者の責任
東間 紘(とうま ひろし)さん
牛久愛和総合病院・院長(東京女子医大病院心臓手術事故当時の同院・院長)
平柳さんの医療事故では、カルテ改ざんもあり、奈落の底に落とされた状況でした。病院が患者にとってどういう存在なのか悩み、医療者側が変わらないといけないと痛感しました。
被害者の目の前で内部調査委員会をやることは、はじめ本当に怖かった。でも、それでようやくお互いが歩み寄り、前にすすむことができました。
医療不信を打開する努力が必要なのは、患者側ではなく医療者側です。私たちが患者の思いにどう応えていくかを真剣に考えないといけない。それを抜きにした第三者機関では、解決にはならないと思います。
思いをつなげるメディエーション
柴田 康宏(しばた やすひろ)さん
淀川キリスト教病院、事業統括本部・事務長
医療メディエーション(調停)は、裁判の回避策ではありません。対話を続け、不信が生まれた理由を 探り、それを少しずつ取り除くことで、思いをつなげる努力を重ねます。そうすることで、患者と医療者の対立の構図が、病や苦痛に患者と医療者がともに立ち 向かう構図に自然とかわっていきます。
研修では、マニュアル的な対応を戒め、いかに患者に寄り添えるかを学びます。
大切なのは、院内や医療界に、信頼を再構築する努力を惜しまない風土・文化をつくることです。死因究明は大切な要素ですが、医療者の姿勢はさらに重要です。
(民医連新聞 第1421号 2008年2月4日)
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