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民医連新聞

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連載 安全・安心の医療をもとめて(59) 医薬品副作用被害者「救済制度」 活用の10年をふり返って 埼玉民医連

 医薬品を適正に使用したにもかかわらず、副作用で健康被害が生じた場合、独立行政法人・医薬品医療機器総合機構の救済給付が受け られます。この制度は、スモン訴訟など多くの薬害被害者の犠牲とたたかいで勝ち取られました(一九七九年)。埼玉民医連では、副作用の発生を教訓化し、患 者に給付申請をすすめています。一〇年間の事例をまとめ、制度をもっと活用するための課題を明らかにしました。第八回学術・運動交流集会で報告した松川朋 子さん(薬剤師)の寄稿です。

初の給付申請と事例の教訓化

 埼玉民医連での給付申請は一九九七年に始まりました。以降二〇〇六年までの一〇年間で、一七件を経験しました。特徴的な事例をいくつか紹介します。
 初めての申請は、ネフローゼ症候群治療のためのプレドニゾロンによる「両側大腿骨頭壊死」症例でした。治療計画をきちんと示し、教科書通りにステロイド 漸減を行なった中での健康被害でした。この例では医療費・医療手当が給付されました。
 この事例から、同じ被害を繰り返さないために、医師との共同作業で『ステロイド大量投与患者への対応』として、診療現場からの提言(患者さまへの説明、スクリーニング、脂質代謝のチェック、副作用報告)をまとめました。

被害を無にせず指針に生かす

 薬の副作用による死亡が最も疑われた症例もありました。アロプリノール過敏症候群です。一九九六年当時、アロプリノールがこれほど重篤な障害を引き起こすことは認知されていなかったと思います。この症例では、医療費・医療手当・遺族年金・埋葬料が給付されました。
 最悪の転帰をたどった事例を教訓に、「腎機能低下例に対するアロプリノールの投与計画」を策定しました。一つの指針の背景には患者さまに起こった大きな不利益があるのです。
  死亡例ではバルプロ酸による「致死性肝障害」もありました。この例では、医療手当・遺族年金・埋葬料が給付されました。解剖の承諾がご家族から得られ、文 献が病理診断を支持する一助になり、副作用の評価判定としては非常に珍しい「病理組織剖検で薬剤による障害が確認された例」として「確定」になりました。

知識・技術・倫理観を育もう

 しかし一方、経過や資料がファイル管理されておらず、詳細不明で終わっているケースも多く存在しました。
 事例から教訓を引き出し、患者に給付申請をすすめる上では、医師や看護師をはじめ、ソーシャルワーカーなどと連携することが必要です。薬剤師集団の力量が求められます。
 これらをふり返る中で、現状を共有し、課題を明らかにしました。
 被害の発生を見逃さない知識や技術、倫理観を育(はぐく)むこと、また、検証に耐える業務を構築することが必要です。電子カルテシステムを活用した統計処理や、病院・診療所内で手順を確立し、徹底を急ぐことにしました。
 制度についても、それぞれの地域、事業所で学習し、医療安全のとりくみの中に「副作用発生時(発見時)の対応」を手順として明確にすることにしました。

被害者が勝ち取った制度だから

 副作用被害救済制度の請求手続きは、多大な労力を要します。そのためか、医療者の側で利用をためら うケースが見受けられます。しかし、せっかく勝ち取った制度なのに、利用しなければ給付は後退し、制度そのものを失う可能性もあります。何より、重篤な副 作用の被害を受けた患者さまの救済のために、制度を知らせ、利用することが重要です。
 副作用の被害発生は、飛び込んでくる情報を待つだけでは把握できません。また、知って終わりでもありません。
 私たちは、患者のためにたたかってきた歴史と、それをささえる住民組織をもっています。歴史に学び、被害に報いるために、あらゆる努力をする、それができる環境をつくっていこうではありませんか。


医薬品副作用被害救済制度

 給付費用は、医薬品製造販売業者の拠出金でまかなわれる。給付は医療費、医療手当、障害年金、障害 児養育年金、遺族年金、遺族一時金及び葬祭料。請求は、被害を受けた本人(遺族)が、請求書と添付資料(診断書等)を機構に送付し判定を受ける(請求期 限、対象の制限がある)。詳細は、http://www.pmda.go.jp/を参照。

(民医連新聞 第1420号 2008年1月21日)