ベッドは地域の共有財産 医療の連携ひろげた―山口・宇部協立病院
山口県宇部市では、救急医療が急速に悪化しています。救急車の利用は年ねん増えているのに、これまで救急医療をささえていた病院 が次つぎ撤退しているからです。そんな中、がんばっている病院があります。宇部協立病院(一五九床)です。この危機を医療機関同士、競争するのではなく連 携をとって解決しよう、医師会や近隣病院と手を組んで地域医療を守ろうと、推進役になっています。(板東由起記者)
患者さんを守れない
宇部協立病院では、救急車の受け入れが急増しています。〇四年に五二四台だったのが、今年は八〇〇台を超えるのは確実。人口約二〇万人の医療圏で夜間の救急車を受け入れる病院が、地域の中でここだけの日も多いという深刻さです。
なぜ、こんなことに? 大学病院が三次救急しか受け入れない姿勢をとり、他病院も医師不足で一般病床を減らしているからです。通院していた病院で夜間救 急を断られ、二〇㎞も離れた同病院に搬入されたり、消化管出血でショック状態になっているのに、搬入先決定に一時間以上かかり、すぐ死亡した患者さんもい ます。
同院の一二人の医師たちは必死でがんばっていますが、これ以上放置できません。「このままでは身が持たないし、自分たちだけでは患者さんを守れない」。 野田浩夫理事長は今年、宇部市医師会の「懇談会」で問題を投げかけました。すると、近隣病院の若手医師が「八回も当直してヘトヘト。院内では救急医療を止 める議論もしている。連携できるなら続けられるかも」と発言しました。
夜間の救急体制や、開業医も含め地域の医療体制を整備する議論が始まりました。
みんなが手を組んで
この「懇談会」は、野田医師と立石彰男副院長が「診療所と病院、病院と病院のネットワークをつくろう」と、再三医師会に働きかけて〇四年に実現したものです。
当時、医師会には一部の病院だけで運営する「病診連携制度」があり、一〇年間続いていましたが、ほとんど機能しておらず、同院は加われませんでした。
「懇談会」には医療圏の全病院が参加し、そこが提案して地域連携のあり方も新しくなりました。
全病院の地域連携室のスタッフが定期的に会合して、情報交換しています。今では、救急告示をしていない病院も連携のメンバーに加わるなど開放的になりました。
院内学習会を公開し
地域の医療機関の結びつきを強めるために、「自分たちがまず可能なことを」と考えた同院。立石医師が中心となって、院内在宅緩和ケア学習会を地域に公開しました。得意な分野でした。
立石医師は「地域の医療従事者が集まって学習すれば、日常診療やケアの内容がレベルアップする。お互いの事情を知り合い、医療崩壊の打開策につながる」 。名称を「地域緩和ケア研究会」に変えました。最期までその人が望むように生を全(まっと)うできるまちづくりをめざしています。
市内の医療機関や開業医に参加を呼びかけると、医師だけでなく、訪問看護師や薬剤師など様ざまな職種から参加申し込みが。第一回目の研究会には六六人、第二回目には二一五人も集まりました。
同院の地域連携室・来嶋(きじま)妙子さんは、近隣病院の地域連携室のまとめ役です。看護師と隔月に集まり、情報や悩みを交流する中で、患者さんの状況に合った病院を紹介し合える関係になりました。
待たれていた呼びかけ
来嶋さんは「回り道のようでも、地域の中で病院の壁を越えて具体的に連携していることが役に立ちました。私たちの呼びかけは、待たれていました。大学病院や開業医にも一次二次救急への関わりを増やしてもらうなど、解決策を見つけたい」と話しました。
野田医師は「病院同士が競争するのではなく、医療従事者が手を組めば、宇部の医療を守れる条件はある。地域のベッドは住民の共有財産ですから」と信念を語りました。
がんばれるその力は何か? 野田医師は「組合員さんの『入院するなら協立病院で』の声に励まされています。この地域に責任がありますからね」と、笑顔になりました。
(民医連新聞 第1418号 2007年12月17日)