介護ヘルパー これじゃ続けられない 介護労働者も利用者も悲鳴 低すぎる介護報酬見直しを 笑顔で働き続けたい
介護の現場が危機です。介護職員の確保が困難で深刻な人手不足が生じています。低すぎる介護報酬のもとで、介護職員が低賃金・劣 悪な労働条件におかれ、離職が増え、新規就業者が減っているからです。「軽度」要介護者の利用制限で必要なサービスが受けられない、負担金が重すぎて利用 できない高齢者が多数います。介護保険制度が「介護の社会化」を投げ捨て、介護を「売り買いするもの」に変質させている…。介護職員や事業所の自己努力で は限界です。事態を打開するため、全日本民医連は「緊急に介護報酬の引き上げ」を要求しました。各地から集まってくる賛同書には切実な声が書かれていま す。
介護保険導入後、介護施設に支払われる報酬は、一貫して下げられています。しかし施設では、利 用者さんの重傷化、認知症の増加、施設のユニット化に対応するため、国の基準より多くの職員を配置しないとやっていけないのが現状です。たとえば、特別養 護老人ホームは、配置基準が利用者三人に職員一人ですが、実際は利用者二・三人に一人、基準の一・三倍の職員を配置しなければやっていけません。
こうした背景もあり、介護職員のパート化が著しくすすんでいます(図1)。また介護職員の賃金は、全産業平均の約六割という低水準です。しかも、毎年の ように悪化しています(図2)。一週間の労働時間も、全産業の平均が三五・六時間なのに対し、介護職員は三七・六時間と多くなっています。
なかなか正規職員になれず、身分は不安定、勤務時間も長いということになれば、離職する人が増えるのは当然です。介護職員の離職率は二〇・二%で全産業 の平均一七・五%より高く、離職者の八割は勤続三年未満です。事業所の四つに一つは、「職員の三分の一が毎年辞めていく」。まさに異常事態です。
四割以上の介護職員が「収入が低い」「休暇がとれない」と悩みを抱えながら、それでも続けている理由に、六割以上が「働きがいのある仕事だから」と、答えています。でも、意欲や使命感だけでは限界があります。
訪問介護職員は、〇六年、制度導入以来はじめて、前年比四・五%(約八〇〇〇人)減少しました。
ヘルパーの働きがい
〇七年一一月一一日、東京都内で開かれた第六回ヘルパー全国学習交流集会(二六都道府県から一八四人が参加)では、参加者が悲痛な声を上げました。
「若い職員は、正規職員を希望します。しかし人数は限られていて、結局のところ、『今のまま働いても先が見えない』と、仕事が好きなのに職場を去らざる を得ない」「訪問介護の申し込みがあっても、ヘルパー不足で断っている。募集しても集まらない。病院から退院し、在宅になる高齢者は増えているのに、ヘル パーがいなくて本人も家族も困っている」「介護福祉専門学校では『定数が埋まらない』と、先生は嘆いている。半数以上が定数割れで、年に数校が廃校に」 「『一五分で食事の用意をして、一五分でお掃除しますから。お風呂の介助はできないけど、いま入ってください。何かあったら助けるから』。これが利用者さ んから見た、今のホームヘルプの実態。家事介助が制限され、ヘルパーの働きがいがなくなっている」…。
介護制度の改善を
小川栄二・立命館大学教授は、「外出介助や生活援助の制限は、利用者さんも困るが、ヘルパーに とっても裁量権が奪われ、専門性の喪失につながります。ヘルパーは、その人の生活全体を見渡し、必要な援助を見極め、生活をささえられたときに喜び、成長 し、そして勇気が湧くのです。サービス制限に反対すること、ヘルパーが食べていける条件をつくることは一体のものです。介護報酬が上がると利用者さんの負 担(保険料)も上がってしまう構造を打開しなければなりません。それには、税金の投入が欠かせません」と参加者を励ましました。
集会では、「安心して介護が受けられる介護制度に改善を、魅力ある専門職になるよう、ヘルパーの労働条件整備を力を合わせ、国や自治体に声を出し、地域 で行動を強めよう」と、アピールを採決。会場のある神田付近から上野駅までパレードしました。
(参考文献)
※ 〇四年、厚労省・介護サービス施設事業所調査
※ 〇七年四月二〇日、厚労省・社会保障審議会福祉部会資料
※ 〇六年、厚労省・介護サービス施設事業所調査
民医連の緊急要求1.次期改定を待つことなく、早急に介護報酬を引き上げること |
介護報酬は労働に見合わない
うしおだ老健やすらぎ 天野皓昭(医師)
介護報酬を、介護保険初期の二〇〇一年と二〇〇六年改定後を比較しました(図3) 。施設入所の報酬が低く抑えられ、通所が比較的手厚くなっています。換算すると極論ですが、施設スタッフの午後五時から翌朝九時までの労働評価は「〇円」になってしまいます。
施設スタッフの介護内容を在宅ヘルパーの介護報酬に換算してみました。車イス・重度認知症・要介護4の女性 (94) の場合では、一日に四万七〇〇〇円。実際の報酬は一日で九七四四円です。要介護度1~5の人について試算すると、要介護度が高いほど、大きなギャップがあ りました。
多くの老健施設では、夜勤・遅番・早番の勤務者が交代勤務し、記録やチーム会議、カンファレンス、研修などにも多くの時間を要します。これでは、入所者 一人ひとりに十分に対応するのは困難。やろうとすれば職員の負担が大きくなります。
通所や訪問介護の報酬も決して高くありません。現在の介護報酬は、全般に現場の労働状況を勘案したものになっていません。制度の全面見直しが急務です。
(第八回学運交で発表)
訪問介護の利用時間・回数が減少
甲府市地域包括支援センターきょうりつ 吉野美佐 (社会福祉士)
〇六年、「過剰なサービスが自立を妨げている」などの理由で、「軽度」の要介護者が「要支援」 に認定され「予防給付」に移されました。その結果、必要なサービスが受けられなくなった人が多数います。当センターが調査した六六件の中、「訪問介護の時 間・回数の減少」が一九件で最多でした。居宅サービス給付費は下がり、国保中央会の調査では、〇六年一〇月は前年対比でマイナス六%。当センターの調査で は改悪後マイナス一二%でした。事業所の収入は激減しています。
実態は「要介護」なのに認定は「要支援」。不安で体調を崩した人もいます。認知症やうつで「介護予防」は不適切です。そういう人は「認定への不服」とし て区分変更を申請しました(一八件)。うち九割が「要介護」になりました。
当地域では、介護認定を受けても半数はサービスを利用しません。孤独死や高齢者虐待が発生し、「他人に年金を引き出された」「介護を放棄された」などの 事件の背後に経済問題があります。介護サービス充実には、貧困の対策、負担の軽減、そして介護報酬の引き上げが不可欠です。
(第八回学運交で発表)
介護改善アピール賛同書に寄せられた意見
〔民医連外の事業所から一部を紹介〕
◆グループホームは、利用料と一割負担だけで苦しい財政だ。職員の入職や退職の度に人件費がかさむ。介護報酬を見直してほしい。(東京)
◆相 次ぐ介護報酬の引き下げで、給料も上げられず、長く働こうという意欲が持てない。〇八年の医療制度改定を前に、行き場のない要介護高齢者が発生している。 特別養護老人ホームでは、医療処置(胃ろう、経鼻、吸痰など)が必要な人の受け入れができない。看護師の数が限られ、介護士にその仕事を頼まざるを得ない 状況になれば、法律違反の対応が予想される。看護師不足も深刻、無理な勤務を強いている。(愛知・特別養護老人ホーム)
◆介 護報酬が低いため、入所者の発病や症状悪化で医療機関の受診や投薬を受けると、持ち出し。それが職員の給料にも影響し、低いうえに追い打ちをかけることに なる。ポータブルトイレも直し直し使っているので、安全面も心配。保温配膳車、センサーマットも買うことが困難。(愛知・老健施設)
◆本当に経営難。人件費率が七〇%を超えている。借金の返済なんて、とても不可能。しかし入居者さんには、喜び感謝されているので、続けていきたい。継続には、介護報酬引き上げは必須。(愛知・特養老人ホーム)
◆介護職員の賃上げができないことに悩んでいる。制度を維持するため、介護報酬の引き上げを要求する。また、厚生労働省の職員には一定期間、民間の介護保険施設で、研修義務付けを要求したい。(宮崎・グループホーム)
◆送迎のガソリン代、車のリース代、運転スタッフの人件費、保険や修理代など、経費はどんどん上がる。大勢の利用者さんを乗せての送迎はきつく、少人数で何台も出さないといけない。安全に負担のない送迎費用の算定を認めてほしい。(宮城・デイサービス)
◆う ちは介護職の時給は高めなのに、なかなか応募がない。志高く、この仕事に就いたのに介護保険の改悪をみると、先が見えない。「生活できない」と離職するス タッフも多い。高齢者が増えるのは確実なのに、誰が面倒をみるのか? 利用者の負担も多くなり「もう生きていけない」と、絶望的につぶやく人もいる。(宮 崎・デイサービス)
◆在宅報酬が下げられ、給与ベースアップなど、安定した賃金と雇用が不安定になりつつある。利用者、施設を守るには、報酬の引き上げが重要と思う。(宮崎・訪問介護)
(民医連新聞 第1418号 2007年12月17日)