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民医連新聞

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第8回 学術・運動 交流集会 テーマ別セッション 「社会と医療の崩壊に立ち向かう」医療人として学び、考えた

 全体会後、前半・後半で一二テーマ一三セッションが行われました。
 前半セッションでは日本社会が直面している問題に対し、民医連としてどう立ち向かうか。後半セッションでは、メタボリック症候群や診療情報管理など、事 業所が共有すべき課題について、講演やシンポジウムを通して交流し、深め合いました。

第1テーマ 貧困と格差社会、それにどう立ち向かうか

 前半のセッションでは、都留文科大学教授の後藤道夫さんが講演。
 総務省が発表した「就業構造基本調査」をもとにワーキングプア世帯が急増していると指摘。その理由を「小泉、安倍、福田内閣と続く『構造改革』にある」と、様ざまな資料から説明しました。
 二〇〇一年からの小泉内閣の構造改革で、たった一年の間に大企業(社員五〇〇人以上)から、一二五万人が退職・リストラされました。また、二四歳までの 若者が正規雇用につけない一方、派遣などの非正規フルタイムが増えています。
 その結果、九八年から〇七年で、正規雇用は四〇一万人減少し、非正規フルタイム勤務が五五三万に増加。日本は最低賃金が低いため、非正規で働いて、税金 などを支払うと生活保護基準以下になり、しかも「若いし働いている」と生活保護も受けられません。病気になると生活もできなくなり、一気に生活保護しかな くなっていると指摘しました。

福祉国家への転換を

 後藤さんは「本気で福祉国家型へ転換することが必要。派遣などの不安定な雇用を規制し、非正規 フルタイムでも『働けば食べられる』ように最低賃金を上げ、病気になればすぐ受診できるよう医療負担を一割に」と訴えました。その財源として、法人税と累 進課税を適正化し、ムダをなくせば、二〇兆円は確保できると試算します。
 また後藤さんは「ワーキングプアの問題は、勤労者世帯の社会保障の切り下げから生じた。勤労者世帯が団結し、自分たちの権利を主張する運動が必要」と呼びかけました。

第2テーマ 地域医療の崩壊をくい止める

 「看護大運動の到達点」を窪倉みさ江・全日民医連理事が報告。「国民に共感を広げ、一〇〇万筆 署名が国会で採択されるという成果は、看護師が自ら行動でつくり出した。看護師不足と過重労働の深刻化を自分の言葉で語り、民医連の管理の重要課題にし た。この二年間に、全国でフォーラム・学習会が四六三回行われ、二一六自治体が決議し、二八のマスコミが報道した。確信を持って、たたかい続けよう」と呼 びかけました。
 「ドクターウエーブの到達点」を藤末衛副会長が報告。「〇六年七月の医師委員長会議から一年半で、世論は劇的に変化した。医師『不足』の報道が圧倒的 『過剰』を逆転した。『医師不足』は常識になった。医療従事者は『患者の感謝』をささえに、つらい労働に耐えてきたが、医療を消費(商品)と見て『買う』 ような新自由主義的世界では、それはできない。人間の労働を否定し、使命感を薄れさせ、弱肉強食の世界をつくる新自由主義に、人びとは幻滅しはじめた。た たかいの展望がここにある。住民参加や医師・患者関係の見直しなど、地に足がついた運動を」と、これからの課題についても示唆しました。
 シンポジウムでは五人が発言。東京・立川での「市立看護学校の廃止を止める運動」を櫛田葉子さん(東京・健生会)、「福岡県ナースウエーブの会」の広が りを内藤美弥子さん(福岡民医連)、「鹿児島・姶良(あいら)社保協のとりくみ」を浜崎信裕さん(国分生協病院)、「医師確保・公立病院守れの住民運動」 について兵庫・豊岡市議の安治川敏明さん、秋田の「県民集会」について田中誠さん(中通総合病院)がそれぞれのとりくみを報告しました。
 いずれも、地域の広い団体・個人が加わり、その協力を築くうえで、民医連の事業所や職員が大きな役割を担っています。また、これらの運動を通じ「地域が 困難に陥る原因が国の誤った政策にある」と理解されてきたことも特徴でした。
 参加者と意見交換し「いよいよ政策転換を迫るとき」とのまとめを確認しました。

第3テーマ 平和と憲法を守り、いかす

 講演は黄慈惠(ファン・チャヘ)さん。日本に住む韓国人のファンさんは「韓国から見た日本の歴 史と日本国憲法」をテーマに、子どものころに受けた反日教育や、韓国軍事政権から民主化闘争の中で青年時代を過ごした経験を語りました。また、靖国神社に 総理が参拝することは「アジアの人たちに『過去のことは目をつぶって下さい』といっているようなもの」と話しました。
 ファンさんは「日本が一番守らなければいけないのが憲法。九条が『世界平和遺産第一号』として認められたらいいですね。この六一年間、憲法を守った人た ちのおかげで平和があると、笑い合えたらいいですね」と話しました。
 講演の後、昨年の平和ツアー(韓国・中国)に参加した埼玉・熊谷生協病院の三澤直美さん(薬剤師)と埼玉協同病院の清水将子さん(助産師)が感想を報告しました。
 三澤さんは「日本人が加害の歴史を学ぶことは少ない。これは韓国の人にとっては悔しいことだと思う。ツアーに参加して、憲法九条の持つ力を再認識し、伝える立場に変わった」とのべました。
 清水さんは「いのちのSAMBA九条の会」のとりくみを紹介。「敵も味方も愛する人、大切な人を思う気持ちは同じ。戦うことでたった一つさえも尊い命を 奪ってはだめ。毎日感じる命の大切さを伝えたい。活動は小さな一歩だけど、伝えていく意味は大きい」と発言しました。
 後半は会場とのフリートーク。職場の九条の会のとりくみや悩みなど、ディスカッションしました。

第4テーマ あらためて疾病を生活と労働の場からとらえ直そう『目と構えの重要性』

 「胎児性水俣病患者の背後に、流産・死産で生まれることすらできなかった生命があったので は」。熊本・板井八重子医師は、水俣住民三〇〇人以上を訪問調査し、この直感を疫学的に証明しました。水銀汚染が高いほど異常妊娠率が高かったのです。 「このような立ち入った調査を大規模にできたのは民医連だから。そこには患者さんの信頼がありました」と、板井医師は話しました。
 石川・谷口尭男医師は四年間にわたり、基地周辺の訪問調査・健診を続けました。その結果、騒音地域では高血圧の有症率が高く、聴覚障害が多いことを明ら かにしました。「健康被害の実態は、訪問調査を繰り返し、信頼関係を築く中で明らかにできた。住民の深刻な被害の訴えが、訴訟を継続する決意をささえた」 と話しました。
 三四歳のトラック運転手が運転中に脳出血で死亡。労災が認められませんでした。北海道・佐藤修二医師は、死因と業務の関係を明らかにするため、走行距離 一〇〇〇キロ以上、数日間の行程に同行しました。作業内容を記録し、血圧・心拍数の測定によって、血圧が急激に上がる場面を突きとめ、過労死が認められま した。
 広島・青木克明医師は、入市被爆者の原爆症を認めさせました。救援活動で市内に入り被爆したその人は、急性症状が現れ、乳癌、胃癌、卵巣癌を発症。しか し、原爆症と認められませんでした。いっしょに救援活動に入った二三人の消息をつかみ、その多くが放射線に起因する疾患で死亡していたことを明らかにし、 地裁で勝利、認定させました。
 四つの報告の共通点は、困難をかかえた患者さんから目を背けないこと。そして、疾病を生活と労働の場でとらえ、事実を調査し、真実に迫ったことです。

(民医連新聞 第1417号 2007年12月3日)