相談室日誌 連載249 25年ぶりに外に出たAさん 福井 智子
七月に入院してきたAさん(五〇代・女性)は、脳性麻痺で中学卒業まで車イスで生活をしていました。しかし、この二五年間はベッド上でうつ伏せで過ごし、外出したことがありませんでした。
Aさんは八五歳の母と三人の兄姉と暮らしていましたが、家族は他人を家に入れることに抵抗があり、Aさんを外出させることにも否定的でした。そのため 四~五年前に母の介護保険の認定調査で訪問した保健師が、Aさんのことを初めて知りました。その後、市の障害者支援センターの相談員が訪問し、ヘルパーが 月一回、清拭に入るようになりました。
母の入院で、排泄介助や食事介助もヘルパーがするようになりました。今まで母にすべてを頼ってきたAさんは「自分に何ができるか挑戦してみたい。ゆくゆ くは施設に入るだろうから、せめて電動車イスに乗って施設内を自由に動きたい」という思いを持っていました。入院はその準備のためでした。
Aさんはリハビリをがんばり、二時間までならリクライニング車イスで座位ができるようになりました。退院後は通院リハビリができるように、車イスで外出 できるように住宅を改修し、週二回のリハビリ通院、訪問入浴、余った時間に買い物や映画に行くプランを立て、市に申請する準備をしています。
しかし不安が残ります。障害者自立支援法の施行前は、必要なサービスの内容と量は本人と市の担当者との面接で決めることができましたが、今は障害程度区 分によって決められます。Aさんに必要なサービスを市が認めるかどうか…。Aさんは「区分5」で、入院前の移動支援の利用限度は一〇時間。車イスに移乗す るにも二人介助が必要で、外出するには多くの介助時間が必要です。
Aさんは毎日座位の訓練をしないと、また元の状態に戻る恐れがあります。スタッフの働きかけでAさんはやっと「外出したい。お風呂に入ってきれいになり たい」という言葉を口にするようになりました。Aさんが人として当然の欲求を満たすサービスが受けられるように、そして障害者自立支援法の根本的な問題が 解決するよう、自治体に働きかけていきたいと思います。
(民医連新聞 第1414号 2007年10月15日)
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