沖縄戦での「集団自決」めぐる教科書検定 “軍の強制”否定許さない
沖縄戦で起きた住民の「集団自決(強制集団死)」。文部科学省は高校教科書の検定(〇六年度)で、「日本軍に強制された」という記述を修正させました。これに対し「日本軍の責任を免罪する歴史の歪曲」との批判が強まっています。
沖縄では九月二九日、「高等学校教科書検定撤回県民大会」が開かれます。六月八日に続く県民集会です。沖縄民医連の各病院も八月一五日から、歴史の歪曲を許さない「パネル展」を催しています。
沖縄県議会は六月、全会一致で、衆参両院議長、総理大臣、文部科学大臣にあてた「意見書」を可決。「沖縄戦における『集団自決』が日本軍の関与なしに起 こりえなかったことは紛れもない事実。今回の削除・修正は体験者による数多くの証言を否定しようとするもの」とのべ、記述の回復が速やかに行われるよう強 く要請しました。
県議会で、議長の仲里利信氏(自民)が、いままで口にしなかった体験を語りました。暗いガマが怖くて三歳の妹が泣きました。「敵に聞こえる。これを食べ させろ」と毒入りおにぎりを差し出す日本兵…。仲里氏の一家は「幼子を殺せない」とガマを出ました(沖縄タイムス)。
沖縄では全市町村議会が同様の議決をあげ、県議会は二度目の決議をあげました。
検定の根拠あいまい
文科省が検定の根拠にしたのは、大阪地裁で争われている「大江健三郎・岩波書店裁判」で、原告の旧日本軍将校・梅澤裕氏が「自分は命令していない」と主張していることです。
現在も係争中で、裁判所が梅澤氏の主張を正しいと認めたわけではありません。むしろ被告の大江・岩波側が「日本軍の指示や強制によって沖縄県民が集団死に追いやられた」と裏付ける証拠を多数提出しています。
「大江・岩波裁判」とは、大江健三郎著『沖縄ノート』(一九七〇年)と家永三郎著『太平洋戦争』(一九六八年)を発行した岩波書店と著者が、「自決を命 じたと書かれたことで名誉を傷つけられた」として訴えられた事件(二〇〇五年八月)で、原告は梅澤氏ら二人です。
岩波側に訴状が届く前に「自由主義史観研究会」のホームページに予告が載るなど特異な裁判です。
軍隊の姿を隠す意図が
岩波書店の岡本厚氏(『世界』編集長)はのべています(『沖縄戦「集団自決」と日本軍をめぐって』)。
「いま、有事法制とか、国民保護法とかいう形で、日本社会が軍というものと接していくとき、軍と住民との関係がもう一回問われてくる。そういう時代に、 (中略)軍は生き延びるために住民を殺す。死を強制する、こういう考えがあっては困ると。住民は自ら軍に協力し、美しく死んでいく。それが愛国心だといい たいのではないでしょうか。彼らは沖縄戦観を書き換えたいのです。それによって、日本社会を変える、あるいは日本の戦争観を変える。それは憲法改悪につな がっていくでしょう」。
いま、沖縄の怒りは「憲法九条を守れ」の声と結びついて広がっています。
(民医連新聞 第1411号 2007年9月3日)