記者の駆け歩きレポート(15) 現場で育くむ奨学生 「困難な人によりそう医師になって」 群馬県民主医療機関連合会
春以降、群馬大学の医学科一年生六人が民医連の奨学生になりました。群馬民医連は、高校生一日医師体験や新歓企画など様ざまな企画で学生と のつながりをつくり、大切に育てています。現在、群馬大学には民医連の奨学生が一八人おり、全国で最も多い大学です。六月から、毎月一回の奨学生会議の会 場を病院に変え、現場の職員とのふれあいを増やすことにしました。最初は前橋協立病院です。(板東由起記者)
にぎやかな奨学生集団
「こんばんは」。六月二八日、会議室に奨学生たちが集まってきました。今日は一一人が参加です。一年生もすでにうち解けているようで、お弁当を食べながら授業のことや大学での出来事など話しています。
にぎやかな中に、研修医の鈴木諭医師と飯島研史医師もいました。話題は、自身の奨学生時代の話や、アルコール依存症の診療のことなど、難しそうだけど楽しそうです。
瀧口道生院長と研修医の斎藤耕一郎医師が、診療の合間にのぞきにきました。瀧口医師は「元気だった? また実習参加してみない?」と声をかけ、夜間診療に戻って行きました。
「そろそろ始めよっか」。三年生の岩田真弥くんの声で奨学生会議が始まりました。岩田くんは医学生のつどいの事務局をしていて、リーダー的な存在です。
学ぶ内容は学生が決める
今年の学習テーマは「平和」。内容はいつも学生たちが話し合って決めます。先月の会議で「戦争がない=平和といえるか?」「衣(医)、食、住が大変な人にとっては平和じゃないと思う」という意見が出ました。
そこで今月はソーシャルワーカーの阿久澤ゆきねさんとあおば薬局の町田茂さんを講師に、実際の患者さんの話を聞くことに。
「六〇代の男性は重度の糖尿病があり道路で倒れ、当院に運ばれてきた。少ない年金で毎日食べるのが精一杯。受診できなかったのです」。
「アルバイトをしていた三〇代の男性は、数カ月前から体調を崩していた。収入がなく、一日一食という日もある。国保料が払えず、資格証明書を交付されていた。入院費が全額負担の三五万円に!」。
事例を聞いてどう思ったか、二グループに分かれてディスカッションをしました。「資格証明書って何?なんで保険証まで取り上げられるの?」、最初の質問 です。一年生にとっては「社会保障制度」とか「福祉事務所」という話も初めてだったようです。「前橋市では、国保料(税)を払えない一〇〇〇世帯が差し押 さえを受けている」という説明に真剣な表情に。
「困っている人の声が社会問題にならないのはなぜ?」「医師になったとき、どう対応したらいいの?」。一年生の質問が続き、岩田くんや職員が答えていました。
職員とのふれあい増やし
「現場の医師や看護師、他の職種が奨学生とよく関わり、患者さんの実状や現場のがんばりをどう 伝えていくか」。この問題意識から、医学生委員会は奨学生会議の会場を、病院など現場の近くにするよう提案しました。会議の後の交流会に、医師の参加が増 えることも期待できます。「奨学生の顔を見たい。奨学生会議でどんなことをしているのか知れば、職員にとっても刺激になる」という思いからです。
「一番困難な人に寄り添う民医連の医師になってほしい。これは職員みんなの思いです」という医学生担当者の吉村泰志さん。奨学生と職員、共同組織との対話やふれあいの場を工夫しています。
奨学生たちは、「毎週水曜日のランチミーティングは野菜も食べられるし、前の夜から楽しみ」と笑顔で話しました。
1年生から6人の奨学生
群馬大学は、新入生に配る資料の中に、民医連の資料を入れてくれます。これは医学生担当者が、「新入生に実習を紹介したい」と大学に働きかけ、二年前に実現しました。臨床研修制度になり、大学側も民間病院とのつながりを重視しはじめた結果といえます。
その中にアルミハードケース入りのあぶらとり紙もいっしょに加えました。「長く使ってもらえるから」という医学生担当者のアイデアです。ケースには、民医連のホームページアドレスが書いてあります。
(民医連新聞 第1409号 2007年8月6日)