相談室日誌 連載242 症状が改善すると負担増になるなんて 奥宮 弥生
当院のある高知市は、高齢者の独居世帯が多く、またそのほとんどが生活保護基準の境界線にあるような低所得の世帯です。
老人医療で通院治療をしているAさんは、大腸がんのため化学療法を受けています。抗がん剤は高額で、医療制度改悪後Aさんの窓口負担は総額六万一五四〇 円にもなりました。改悪前と比べると、その差はなんと約四万円以上の負担増に! Aさんは、改悪前まで医療費は「一割」負担でした。ところが、「税制改 正」の影響で収入は一円も増えていないのに、特別配偶者控除、老年者控除、公的年金等控除が廃止になり、税制上の収入(所得)が増えたことになってしま い、現役並みの収入がある世帯とみなされてしまったのです。しかし、治療は継続しなければなりません。
さらに、療養病床に入院する七〇歳以上の高齢者は、食費・住居費も負担しなくてはならなくなりました。
現在、療養病床に入院中でうつ症状のあるBさんは、食費・住居費負担は少なく済んでいます(入院医療の必要性が高い状態が継続する患者、回復期リハを受 ける患者には特例があるため)。しかし症状が改善すると、たちまち三万円以上も負担増になります。独居での在宅生活に不安があり、入院加療しながら施設入 所を待っているBさんにとって、この改悪は大きな打撃です。症状の改善は本人にとって当然望ましいことですが、それが負担増につながる今の制度には矛盾が あります。
また療養病床の診療報酬は、医療の必要性を示す「医療区分」と「ADL区分」を基に定められ、医療の必要性が低い入院患者の入院基本料は非常に低く設定されました。
Bさんのように、様ざまな事情から長期入院を余儀なくされている高齢者は増える一方です。その人にとって長期入院が望ましいかどうかは議論が必要です が、入院に代わる施設入所や在宅サービスなど、受け皿の準備が充分に確保できないまま、日々「退院促進」を行う私たちも胸が痛みます。
七五歳以上の後期高齢者を対象とした新たな制度や療養病床の廃止など、高齢者を対象とした医療改悪が予定されています。患者さんとご家族が安心して過ごせる環境をどうするか、私たちも頭を抱える毎日です。
(民医連新聞 第1407号 2007年7月2日)
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