元炭鉱労働者の健康調査 道東勤医協・全国から健診団100人 職業病ほりおこす 難聴・じん肺・振動障害…
国内最後の坑内掘り炭鉱だった太平洋炭鉱(釧路市)が閉山して五年。機械化、省力化で「太平 洋には職業病はない」と宣伝されてきました。しかし、道東勤医協などが参加する実行委員会が実施した離職者六五九人の健康調査と二六四人の健康診断で、じ ん肺、振動病、難聴などの発症が多数認められました。調査・健診の結果がこのほどまとまり、職員たちはフォロー体制を強めようとしています。(板東由起記 者)
7割が健康不安
以前から、医師や研究者たちは離職者に対する大規模な調査・健診の必要性を指摘していました。「労災病が多い」と感触があったからです。釧路協立病院にも、職業病で通院する離職者がいます。
健康調査のため、炭鉱労働調査研究会と建交労、北海道民医連などが実行委員会(福地保馬委員長・藤女子大学教授)を結成し、二〇〇六年九月に第一次調査 を実施しました。住所が判明した離職者八九八人に健康調査のアンケートを郵送し、調査員三〇四人が訪問し、六五九人分回収しました。
訪問の先では「年ねん耳鳴りがひどくなる」「最近、真っ白な痰がでるようになった」という訴えを聞きました。「不燃材を坑道に貼りつけ、作業中に不燃材 を除去して作業していた。中皮種にならないか?」など、健康に不安がある人は七割を超えました。
健康被害の実態が明らかに
ほとんどの人が離職後に健診を受けていません。〇七年三月、第二次調査として健診を三日間実施 した結果、半数以上の人に振動障害、聴力の異常など異常所見がありました。「咳が止まらない」という男性は「坑内でキラキラしているものが舞っていた」と 話しました。看護師の川嶋真希子さんは「待合室で氏名をマイクで呼んでも反応がなかった」と、難聴のひどさに驚きました。
太平洋炭鉱は、釧路最大の基幹産業でした。しかし、在職中も退職時も健診機会が十分でなく、「危険が少ない」は宣伝に過ぎなかったのが実態です。
当日は医師や弁護士が相談窓口を設置し、法律相談や受診につなぎました。
民医連健診団のパワー
この調査に民医連がパワーを発揮しました。第一次調査訪問に関わった職員や医学生たちは、のべ 一八七人。離職者で地域をよく知っている友の会会員さんが道案内してくれました。道東勤医協の職員も「患者さんの半数は太平洋炭鉱の関係者。もっとじん肺 について知りたい」、「知人や家族に元炭鉱労働者がいる。身近な問題なので生の声が聞きたい」と参加しました。
健診は道東勤医協の医師や看護師など五〇人、北海道民医連からも医師、看護師、技師、事務、友の会、医学生が参加。石川や福岡からも医師が参加して、「民医連健診団」は一〇〇人以上になりました。
貴重な結果をまちづくりにいかす
「炭鉱で長期間働いた人ほど自覚症状が多い」「離職後の生活は若年層がきびしい」など、様ざまな分析がされました。北海道新聞などマスコミも注目しました。今後の健康対策にも役立つ資料です。
法人内実行委員長の黒川聰則医師は「これからもっと健康管理体制を整備し、継続的に健康状態をフォローしたい」と話しました。桜ヶ岡医院の看護師は「自 分たちが働くこの地域に、労災や疾病を患っている人がこれほどいるとは。知らずにいたことが恥ずかしい。労働から疾病をとらえるとは、これなんだ」。貴重 な体験でした。離職者からは「いい健診をしてくれた」と今後への期待も寄せられています。
野原秀樹さん(実行委員会事務局)は、「結果を企業や行政、労災病院などの医療機関に知らせる、地域の情報として共有します。離職者の健康のために何を すればよいか、みんなで知恵を出し合えば、具体的な方法が見えてくる。これがまちづくり」という構想を語りました。
「地域から学ぶ」、「健康で暮らせるまちづくり」に大きな財産とイメージが一つ加わりました。
(民医連新聞 第1406号 2007年6月18日)