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民医連新聞

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9条めぐる重大な時期 綱引きは今から 国民投票法の成立で 渡辺治さん(一橋大学教授)にインタビュー

 改憲の手続き法=国民投票法が成立しました。三年後には改憲の発議ができる…、危機が迫っています。「九条を変えさせない」と願う人びとを多数派にし、改憲阻止の運動を強めるために、いま大事なことは? 一橋大学教授の渡辺治さんにインタビューしました。

世論の力で発議させない

 改憲の両輪のひとつ改憲手続法が強行され、まさに重大な時期にさしかかりました。この法は、国 民投票運動に市民が参加するのを弾圧し、最低投票率も定めずに一割か二割の国民の賛成で改憲案を通してしまおうという悪法です。また、この法にもとづき、 与党は参院選後に憲法審査会を作り、民主党も巻き込んでなし崩しに改憲草案づくりをはじめようとしています。改憲の危険なねらいを明らかにして、改憲案を 発議させない運動が重要です。
 改憲には二つのハードルがあります。ひとつは衆参両院で三分の二の多数の賛成で改憲案を発議すること、二つ目はそれを国民投票にかけ過半数をとることで す。発議には自民・公明では足りません。民主党を巻き込むことが不可欠です。ところが改憲手続法の成立を急いだ安倍首相は、審議を一方的に打ち切り、民主 党の顔をつぶしました。世論と運動の盛り上がりに焦ったからです。
 読売新聞の世論調査では三年連続で憲法改正賛成が減り一時は六五%あった賛成が五〇%を割り込みました。朝日新聞でも共同通信でも九条改正反対派が賛成派を上回っています。改憲派の予想に反し、急速な変化です。
 この背景にはちょうど三年前に発足し、いまでは六〇〇〇を超えた「九条の会」の活発な運動があります。そう考える方が自然です。改憲派は、この変化に 焦っています。安倍首相が改憲手続法を急ぎ、また改憲の必要を訴えるため「憲法問題を参院選の争点に」と言い出したのはその表れです。

改憲とめる過半数は可能

 世論調査に現れているだけでは目に見える力にはなりません。これら人びとが「九条改正反対」 「戦争する国づくり反対」と声を上げる運動が必要です。「九条の会」の運動は、こうした潜在的な九条改憲反対の思いを声にする、九条改憲反対の大きな輪を つくる運動です。九条の改正に反対するという一点で、保守の良識派も加え、国民の過半数を集める運動が必要です。世論調査は過半数が可能なことを示してい ます。過半数が声を上げれば、改憲はできません。
 市民が九条改憲反対の声を上げるには、生活や権利を守る様ざまな運動に参加することが大きなきっかけとなります。医療改悪や構造改革に反対する運動が大事です。必ずつながります。
 改憲反対の過半数の声を結集する運動は、やったことのない闘いです。そのためには知恵も工夫も必要です。集会をやる場合でも、「これくらいだね」と妥協 するのでなく、今までやったことのない規模の大きな集会をやることが必要です。また憲法審査会に向けての運動も工夫が必要です。国会の様子をパソコンで見 て、メールやファックスで機敏に反論できる時代です。議員を励ましたり動揺させることができます。マスコミが悪いといっているだけではダメです。マスコミ をささえているのは労働者です。マスコミが良い番組や記事を出したら、評価して励ます。これは高齢者でも集会に行けない人もできます。
 ある議員は「国民投票法反対でメールとファックスが山ほど届き、困った」と言っていました。事実、最低投票率の問題は短期間に広まり、議論の方向が変わ りました。正論が声になれば審議せざるを得ない。これが教訓です。政党を動かすのは私たちなのです。
 民主党を改憲派に同調させず、自民党にも働きかけて、憲法審査会を案づくりに突入させないことが大切です。

正論大いに語ろう

 改憲派も正面から「九条は悪い」とは言えません。「現実に合わなくなったから変える」と言う。しかし、憲法は、いつも現実との緊張関係にあるものです。国民の生活権が守られない現実に合わせて、憲法二五条を変えろとはいえないはずです。
 「北朝鮮の脅威」とも言う。しかし、「国民総生産は日本の二六〇分の一、軍事費は自衛隊の二〇分の一。海外侵攻用の兵器もない、石油も不足している。専制的な軍国主義の国ですが、侵略などできない」 、 これが現実です。
 一九四五年以降、米国はアジアで何度も戦争しましたが、九条があるから日本人は戦場に行かずにすみました。自衛隊は五〇年間人を一人も殺していない軍隊 です。偶然ではありません。海外に侵攻するのを九条が禁止してきたからです。九条は立派に生きて、海外派兵を縛っています。
 六〇年間できなかった改憲をするのは、相手も苦しい。綱引きはこれからです。しかも以前に比べて、護憲運動に参加する階層は広がっています。九条の価値を大いに語っていきましょう。


渡辺 治さん
 政治学者。一橋大学大学院社会学研究科・社会学部教授。憲法に関する著書多数。「9条の会」事務局で活躍。

(民医連新聞 第1405号 2007年6月4日)