国保 滞納者に制裁 保険証 取り上げで死亡23人
安倍政権「健康保険証」取り上げ 愚政で「弱者が次々死んでいる!」…週刊ポスト(三月三〇日)は、全日本民医連の調査報告をもとに報じました。 国保証が取り上げられ、この二年間余に分かっただけで、二九人が死亡しました。国民健康保険の滞納世帯は四八〇万(〇六年度)、約五分の一が滞納世帯で す。制裁措置で三五万世帯が資格証明書、一二二万世帯が短期保険証しかもらえず、受診しにくいため「手遅れ死」が後を絶ちません。全日本民医連は、政府に 厳しく提言する一方、各事業所で困難な人びとに手を差しのべ、たたかいを強めようと呼びかけています。
全日本民医連が行った「国保死亡事例」調査の概要は、下の表のとおりです。三月一五日に記者会見し、発表しました。
二九人の死亡事例から浮かび上がって来たのは、収入の乏しい人に高額な国保料(税)が課せられるため払えないこと。リストラされ再就職も困難、あるいは 事業の不振や倒産、借金返済などで、生活苦のうえ病気に。保険料(税)が払えない人が、どうして窓口で医療費全額を払えるでしょうか。受診を手控えるうち に悪化、手遅れになったケースがほとんどです。
「国保料(税)が払えない」は「生活の窮地」と等しい。しかし行政は救済どころか、一方的に制裁し、滞納分を取り立てようとし、病人を追いつめ絶望させ ています。「滞納の納付相談が先」など機械的な対応が報告されています。
安倍首相は三月六日の参議院予算委員会で、小池晃参議院議員(日本共産党)の質問に「本当にそうなら、指導しなければならない」と答えました。事実なの だから、国保法の正しい運用について、各自治体に早急に指導するのが政府の仕事のはずです。
制裁が命を奪う
全国保団連が実施した「国保資格証明書の交付を受けた被保険者の受診調査」では、一般被保険者の三二分の一程度(神奈川県)、一一三分の一程度(福岡県)しか、資格書では受診できないという結果が出ています。
資格書は受診を著しく抑制しています。しかし、制裁措置率(資格書+短期証/滞納世帯)を調査した中央社保協の報告(〇六年度)では、全国平均で三二・ 八%が制裁を受けています。最悪の熊本県は八八・三%にも(左表)。
リストラ、倒産、病気、交通事故、老齢、誰の身にも起きうることが貧困の入り口になったことは、事例が示しています。国保料(税)が払えない世帯に、命を奪うような制裁を加えるのは大きな問題です。
制裁は直ちに中止を 全日本民医連が緊急提言 ――厚労省は自治体に通知・指導すべき 1)「制裁措置」を撤廃し、短期保険証や資格証明書の発行は直ちに止めること。 2)特に、子どものいる世帯、高齢者世帯への資格証明書の発行は止めること。 |
無念の死亡事例から 全日本民医連の調査
資格書が一方的に…65歳・男性・無職/肺気腫
病気で仕事(タクシー運転手)を失い、年金受給年齢まで無収入だった。治療は中断、保険料を滞納し資格書を一方的に送りつけられた。入院先のSWが国保課に連絡すると「納付相談なしに発行できない」といわれ、代理で出向く。しかし、保険証が発行された翌日死亡。
路上で倒れ…64歳・男性・無職/低栄養・高血圧・糖尿病・心疾患
前日から何も食べておらず、路上で倒れたため救急搬入に。生活保護を受給していたが、老齢年金10万円が支給になったため打ち切りに。国保料は滞納、医療費の全額負担で生活費を切りつめていた。
3人の子を抱えて…32歳・男性・会社員/気管支ぜんそく
タクシー会社を退職後、職を転々とし、国保は未加入。市営住宅家賃や子どもの学校費用、発作で受診した救急センターに未払いがあった。窮状に気づかれず、激しい発作を起こし死亡。
市販薬でがまん…55歳・男性・自営業/すい臓がん
倦怠感や痛みがあったが、保険証が期限切れだったため市販薬でごまかしていた。嘔吐で受診したときはがん末期だった。35万円の滞納があり、仕事ができないので生活保護を申請したが、入院のまま死亡。
リストラされ…57歳・男性・ 無職/肺がん
失業保険で半年は暮らせたが、仕事が見つからず預貯金を取り崩す。国保料が払えず無保険に。救急車で来院し「不調を自覚したが医療費が心配で来られなかった。入院はしたくない」と。生活保護を申請したが、入院中に死亡。
医療費1回3万円…52歳・男性/大腸がん
板金・溶接の仕事は日給月給で手取り16万円。受診後すぐ入院となったが、点滴を引き抜いて帰 宅。スタッフや家族の説得で帰院したが、数カ月後に死亡。以前に外来を受診したとき10割負担で3万円だった。自己退院は医療費が心配だったと考えられ る。国保の滞納額は77万円。
滞納はなかったが…47歳・女性・無職/腹膜腫瘍
8歳の子の母。夫の事業の失敗で自己破産。夫の収入は25万円で、まだ10万円の借金返済があった。半年前から症状があり、保険証はあったが経済的な問題で受診せず。受診したとき腫瘍は触診でわかるほどだった。
「国保税納入案内」…55歳・女性・無保険/子宮がん
数年前から保険税を滞納したため、1年の短期証、3カ月の短期証のあとは「国保税納入案内」が3回届き、保険証は渡されなかった。痛み止めを飲んでがまんし、救急車で入院したが翌日死亡。保険証をもらったが遅かった。
子ども、病人から奪うとは
東京・小豆沢病院 生健会・区議と協力し取り戻す
東京・小豆沢病院では、小学生が無保険で受診したことを機に、その家族の窮地を知り、「生活と 健康を守る会」や区議会議員の力も借りて支援しました。その中で、最近、板橋区が三万三〇〇〇を超える滞納世帯の約二割にあたる約六三〇〇世帯に資格書を 発行していることがわかりました。短期証の二・三倍もの発行数です。「子どもや病人がいる世帯から保険証を奪ってはいけない」と告発しています。
Aくん(11)が学校でケガをし、受診したことが始まりです。祖母は「保険証が送られてこな い」と言い、二世代で営んでいた家業の経営が悪化、世帯を分離したことを打ち明けました。息子さんは勤めに出ましたが、収入が少なく、借金返済もあり国保 料が払えず、慢性病のある祖母の世帯は資格書になり、治療を中断していました。
協力者とともに区と交渉した結果、短期保険証を入手、Aくんは無事治療を終えました。学校安全会の給付も受け自己負担はゼロでした。
小豆沢病院医事課國吉宣さんの話
少子化が問題になっている中、子どもに保険証を発行しないなんて、行政は何を考えているのか?
保険証がなければ受診は控えます。Aくんはケガをした場所が学校だったため受診したといえます。
「患者の抱える問題を見逃さない」「気になる患者がいたら対応しよう」という思いは、職場会議での集団学習に力を入れたことが大きく、忙しい受付業務の中でも、協力して患者さんの話を聞く態勢をとるようになりました。その後も幾人かの相談にのることができました。
A君のケースを通して区議から聞いた話ですが、「これまでは、区役所に相談に行けば、一〇〇〇円ほどの少額を分割払いで、短期保険証を出してもらえました。
しかし、いまの区役所は、まるで借金取りのように滞納額を示し、無理な分割払いを約束させます。滞納者は約束を守ろうとサラ金に手を出し、役所はサラ金で借りた金と知って受け取る。払わないと悪質滞納者のレッテルを貼って済ます」というのです。
幸いにも今回は、生健会や区議の協力で交渉に成功し、家族から感謝されました。しかし、板橋区の資格書の発行数から考えると、今後も同じような事例が発生するのでしょう。この他にも気管支ぜんそく児の中断など、何件かの問題が発生しています。
子どものいる家庭に資格書を出さない自治体(山形など)もあるので、板橋区に対しても運動することを考えています。
(民医連新聞 第1402号 2007年4月16日)