高齢者医療・介護・生活実態調査 貧困 孤立 2万人の声が伝えたこと
昨年秋に全国の民医連事業所でとりくんだ「高齢者医療・介護・生活実態調査」の概要がまとまりました。いま問題になっている格差 拡大・急増する貧困層の大きな部分を占めているのが高齢者です。その生活ぶりや抱える困難、要求をリアルにつかんで、社会保障制度の改善の方向性を見出 し、国や地方の政治に反映させよう、またすべての高齢者が安心して住み続けられる地域・まちづくりに生かそう、という目的で、調査は行われました。集めた 声は二万件、結果から浮かびあがったキーワードは「貧困」と「孤立」でした。また、高齢者の生活の場に足を運んだ職員はのべ二万四〇〇〇人に。寄せられた 数百枚の報告書から職員の声と、結果の概要をレポートします。(木下直子記者)
調査について 対 象:65歳以上の医療生協組合員、友の会員(入院・入所者を除く) 方 法:訪問調査員(民医連加盟の事業所職員)による面接でのききとり 対象数:7万107件 集約数:2万769件(有効回答2万521件)女性62%/夫婦のみ世帯31%/ひとり暮らし世帯25% |
貧困 厳しい生活をする高齢者たち
グラフは 本人の月収についての結果です。一〇万円未満の人が四割を占めました。とくに女性では過半数にもなりました。また、「収入は国民年金だけ」という人が、公 的年金受給者全体の二割。介護保険料の段階は、回答者の四割が、第1から第3段階までの住民税非課税(本人・世帯)でした。無年金者が八〇五人を数えたこ とも、見過ごせません。
国民健康保険の加入者は八割を超え、その人たちの四割近く(生活保護受給者を除く)が、月収一〇万円未満です。生活保護基準(単身高齢者)と同じか、そ れ以下の生活です。三人に一人が「生活が苦しい」と回答し、こうした事情を物語りました。特にここ四~五年の暮らし向きが「苦しくなった」と訴えた人が、 四割を超えました。昨年、税制改定が高齢者世帯を直撃し、住民税・国保・介護保険料負担がずっしり重くなったことが反映しています。
回答者の六人に一人が、生活費が足りず、被服費・食費などの支出を切り詰めています。さらにそれでも足りず、「貯金を取り崩している」人も一割を超えま した。調査中、「年金は月三万円だけ。切り崩してきた貯金が底をついた。生活できない」と、相談になったケースも。
職員が寄せた高齢者の暮らしぶりの一部は右項に。暖房をつけずに布団に入って寒さに耐えていたり、野草を食べていたり、生活費のために八〇歳を超えても日雇い労働をするなど、胸の痛む話がつづきます。
支出の抑制は、介護サービスの利用や受診を控えるという形でも行われていました。多くの高齢者が、健康や介護をはじめ、様ざまな心配、先への不安を抱えていました。
孤立 独居、外出なし群 日常生活に支障多い
ひとり暮らしは全体の四分の一でした。その半数が健康上の理由で「生活の支障」を抱えており、税や保険料負担増の影響も大きく受けていました。またこの層の七人に一人が「相談相手がいない」と回答しました。なお、生活保護受給者の七割がひとり暮らし世帯です。
外出頻度の低い層(「外出なし」群)は全体の三分の一でした。またこの傾向は、低所得者に高く、「本人月収五万円未満」層の四割がここに該当しました (グラフ)。この層では健康上の理由による支障が、外出以外に、家事や入浴、食事、起床など日常生活にかかわるすべての項目で高率でした。「近所づき合い がない」という人も二割いました。
困難層はもっといる
また、調査プロジェクトが重視したのは、リストアップした対象者七万件中、協力を断った七割・ 約五万件の存在です。各地から「生活がたいへんなお宅ほど、自宅への訪問をためらい、拒否する」「家が大変で質問に答える余裕がない」と報告されていま す。「病院の待ち合い室でなら協力できる」と言う人も。調査の背後に、困難な事情のために協力できず、現状を訴えることすらままらない層の存在が、推測で きます。
~職員がみた・きいた高齢者の生活状態~
|
「事実」ふまえ社会のあり方を問う
記者会見、各地で注目
「調査で明らかになった事実を踏まえ、地方選や国政選挙で、『高齢社会』にふさわしい、医療・介護・生活保障の転換を提言しよう」と、全日本民医連は考えています。三月一五日には記者会見をひらき、調査結果を報告。一六社の取材が入りました。
県連レベルで行っている記者会見も注目されています。全国に先駆けて開いた沖縄では、地方紙の大きな報道記事になった上に、社説にもとりあげられまし た。写真は鹿児島の会見の報道記事、やはり大きなニュースとして二紙がとりあげました。
「このままではいけない」 調査を通じて職員たちは―
今回の調査が高齢者の生活の場を知る初めての機会だったという職員も少なくありません。「創設三年、調査で職員が初めて地域に出た」という法人も。報告書にはショックが正直につづられていました。
「家に入らないと生活は分からない」「話をきいて、涙が出そうだった」「『経済的に困っていない』と答えていたが、洗濯場に紙オムツが五~六枚干して あった。本当は厳しいのでは」「食費が月一万円という家があった。この方が医療費未収になる理由が分かった」「高齢者の不安の大きな要因は、生活苦なので は?」。
***
政治に怒りを感じた職員も多数。政府の「構造改革」が社会保障を削り、生活に困る高齢者を増やしてきたことを痛感したからです。それでも足りないかのよ うに、政府は六月に税制・保険料の改定で、さらなる自己負担増を計画。〇八年度からの「後期高齢者医療制度」で、高齢者全員に保険料を払わせ、滞納すれば 保険証取り上げも検討しています。
「こんな生活の人から、税金や保険料をとる行政が信じられない」「年金の少なさに驚いた。その大半を介護や医療費にとられ、どうして暮らしていけるの か。怒りがこみあげた」「高齢者が安心して生活できる社会に変えなければ、のたれ死にしか道は残されていないと実感」。
自分たちの役割を考えた人もいます。「困難な高齢者の実態を社会に示すことが、医療に関わる者の使命だと感じた」「友人や家族に話せない思いも、涙なが らに話してくれた。患者様の心のケアを病院で考えられないか。今後も調査と関係なく、高齢者や独居世帯への訪問が必要。もっとたくさんの患者様と話した い」「患者さんの生活を、地域に出てしっかりつかむことはケアマネやSWだけでなく、事務や看護、すべての職種で大切だ」。
さっそく行動も始まった
さっそく行動しているところも。長野・松本協立病院では「地域には調査でつかめなかった困難事例があるはず」と、「困ったことはありませんか?」と呼びかけるチラシを、周辺地域の全世帯に配っています。
東京西部保健生協は、孤立する高齢者の支援に、有償ボランティアの活動を開始。「くらしの相談会」も検討中です。長崎健康友の会・花岡ブロックの幹事会 は、調査に同行し、「会員から孤独死を出してはいかんのではないか」と討議。ひとり暮らし高齢者の安否確認の具体化を考えています。
(民医連新聞 第1401号 2007年4月2日)