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民医連新聞

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医療倫理の深め方(5) 臨床倫理4分割法を活用しよう 全日本民医連医療倫理委員会〔編〕

全盲の妻が、吸引を要する夫の介護をすることを医療者として容認できるかどうか、検討を要する事例

 Aさん(七〇代・男性)は、左小脳出血(開頭血腫除去術)後、気管切開、胃ろうを造設し、リハ ビリ目的で他院に入院中でした。しかしADL(日常生活動作)が改善せず、妻Bさん(五〇代後半)の希望で当院に転院。Bさんは四〇歳で失明(全盲)しま したが、調理を含め、家事全般は自立しています。
 Aさんは転院して六カ月が経ちましたが、四肢体幹の筋力は戻らず、栄養失調や嚥下障害もありました。また痰が多く、持続吸引が必要で、肺炎で人工呼吸器管理になったこともありました。
 スタッフはBさんに介護指導を根気よく続けました。しかし口腔ケアの時にガーゼが口の中に残っていたり、気管から輪ゴムが吸引されたこともありました。Bさんの介護では、限界があると思われました。
 Aさんは気管切開で発声できず、うなずきやまばたき、手を握る、離すなどでコミュニケーションがとれます。しかし、十分な意思疎通は困難です。「家に帰 りたいか」「施設に入りたいか」との問いかけには、明確な答えは得られませんでした。
 Bさんは「夫に恩返しがしたい。一週間でも家につれて帰りたい。何かあっても覚悟している」と、退院を強く願っています。
 スタッフは何度も話し合い、確信を持てませんでしたが、Bさんの希望どおり退院になりました。

検討編

 近年、吸引が必要な患者さんが在宅で生活することは珍しくありません。今回の事例も、困難があっても介護力に問題なければ、本人や家族の意向にそって在宅医療・介護が適応になるケースです。しかし、介護する妻Bさんに全盲というハンデがあり、簡単に結論は出せません。
 どういった点を討論していけばよいのかを考えてみます。まず医学的に見れば、在宅管理よりは入院のほうが安心です。しかしAさんは終末期ではなく、適切 な医療と介護があれば、安定した生活が継続できます。どこでどのように生活するか、ということも考える必要があります。大切なことは、やはり「本人の思 い、家族の思いはどうか」ということになります。
 四分割で整理したように、Aさんはある程度の意思疎通は可能ですが、自宅療養すべきかどうかの意思表示を得るのは困難でした。判断を決めかねているのか もしれません。Bさんは、これまでの夫への感謝から、並々ならぬ気持ちで自宅介護を希望しています。しかしBさんは全盲で、介護に不安があります。「Bさ んの思いは在宅でしか叶えられないのか」、「Bさんの思いは、Aさんの思いに沿っているのか」も検討する必要があります。
 スタッフは確信が持てない中で、退院させました。ここでは「つれて帰る。覚悟はしている」というBさんの思いにいかに応えられるか、という視点で議論 し、ささえる体制(頻回な訪問など)をどこまで検討したか、振り返る必要があります。
 結論は出せませんし、実践しながら議論することが大切です。不安でも退院させたことは、一概に間違っているとは言えないと思います。
 引き続き、患者さんと家族の思いをどう遂げさせるか、という点を柱にすえて、実践しながら議論を続けることが大切です。

(民医連新聞 第1400号 2007年3月19日)