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民医連新聞

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相談室日誌 連載234 「自立のため」の保護停止? 鈴木 弘二

Aさん(八〇代・女性)は、夫と二人暮しです。夫の仕事は廃品回収業ですが、収入が少なく、軽トラックを所有しながらも、生活保護を取得することができました。
 Aさんは認知症がすすみ、歩行が困難なため、当院の往診を受け、介護保険では要介護5の上限ぎりぎりのサービスを受けています。老齢加算が削られた時に は、一日のオムツの使用枚数を決め、「寂しいけれども冠婚葬祭には出ないよ」と言って、しのいできました。
 福祉事務所から夫へ呼び出しがあったのは昨年の三月。「収入が多いから保護を停止する」というものでした。夫に事情を聞くと、「一方的な言い方で悪人扱 いされた、二度と市役所には行きたくない」と。収入を換算しても保護停止には該当しないので、福祉事務所へ同行するからと説得しましたが、「一カ月はがん ばってみる」との返事です。
 Aさん夫婦にかかる負担は、医療費の自己負担六〇〇〇円、介護保険の利用料三五〇〇〇円、国民健康保険税の二七〇〇〇円、計六万八〇〇〇円という多額な ものです。とても黙ってはいられず、福祉事務所へ電話をしたところ、「Aさん夫婦の自立を考えてやったこと」という返答でした。結局、夫と相談し、介護 サービスを減らして自己負担金の支出を抑えることになりました。
 皮肉なことに、夫の介護量が増えたため仕事に行けなくなり、自立どころか生活すら危うい状態になりました。一カ月後、とうとう立ち行かなくなり、夫とと もに福祉事務所を訪ねました。すると、「鈴木さんが出てくるまでもなく、電話してくれれば保護を再開したのに」と、対応が一八〇度変わりました。職員が同 行しないと、解決しない事実もあります。
 夫は「軽トラックを廃車に」というたび重なる福祉事務所の指導に、「仕事も減ったから潮時かな」と考えています。
 地方自治体は、国にならえの「水際作戦」を拡大し、生活困窮者切捨て施策を実施しています。命を守る医療者として、患者さんの生活実態・背景を常に把握 し、粘り強い懇談と交渉を積み重ね、自治体の役割=住民を守る行政へ結びつけていかなければいけないと、日々感じています。

(民医連新聞 第1398号 2007年2月19日)