相談室日誌 連載232 重篤な合併症をもつ母親のために 北村 理恵
Aさん(四〇代女性)は糖尿病の合併症で、透析、足指手指の壊疽、視覚障害など重複障害を抱えていました。退院に際し、透析通院の送迎手配や、日中独居 となるため配食やヘルパーの調整を行いました。Aさんは、部屋中に聞こえるような大きな声でおしゃべりする明るい人ですが、サービス利用には拒否的で、 「どうせ頼んだってダメだよ」と、懐疑的でした。
退院後も面接を重ねるうち、「母親らしいことが何一つできない」「クタクタになるまで働いてくる子どもに、夜中救急受診に付き合わせるのが申し訳ない」 など、二人の子どもをもつ母親としての悩みを、ぽつりぽつりと話すようになりました。
サービス導入後も入退院が繰り返され不安が強まると、診療所やSWに頻回に電話が入るようになりました。透析日以外はベッドでラジオを聞くだけの生活 で、配食サービス以外の食事は食パンだけ。検査データも栄養不良を示す状況でした。
Aさんは状況がなかなか改善せず、「下の子が学校を卒業したら、透析をしながらずっと入れる施設へ入れてほしい」とも訴えました。しかし、それがAさん の本心でないことは明らかでした。まだ若いAさんに、透析のできる療養型病院で、ずっと生活していくことがふさわしいとも思えず、もっと安心して在宅生活 ができるよう検討することが現実的だと判断しました。
関係機関と相談した結果、障害福祉サービスだけ受けている現状を変え、介護保険を中心に一部障害福祉サービスを併用できるようにしました。
自宅でのカンファレンスでAさんから出された唯一の希望は、「自分の食べ物くらい自分で買いたい」でした。当たり前の希望ですが、限られたサービス量の 中で実現できるか、その場では結論が出ませんでした。後日、Aさんから「こないだヘルパーさんといっしょにスーパーで買物してきたよ」と報告がありまし た。
最近はAさんからの電話もめっきり減り、「連絡がないのは達者な知らせ」と思い、地域のみなさんと、ささえているスタッフを心強く感じています。
(民医連新聞 第1396号 2007年1月22日)