患者さんからのSOS 未収金を見逃さないで
病院の窓口で、負担金が払えない患者さんが増えています。「未収金は患者さんからのSOS」という報告も、寄せられています。外来看護、医事、SWと、外来に関わる部門で、未収金の患者さんの検討会をはじめた長野・諏訪共立病院(九九床)を取材しました。
(木下直子記者)
相談室にはどんなケースが?
長野・諏訪共立病院
医療費が払えないという相談は、増えています。また、共立病院に転院してきた理由に、医療費の 支払い困難があると思われるケースも複数。医師法では、患者に治療費の支払い能力がないことなどを理由に、医療機関が診療拒否することを禁じています。し かし、診療報酬のマイナス改定で、経営が厳しい中、払えない患者さんにシビアな対応をとる病院がでています。近隣病院には「会計を済まさない患者には処方 せんを渡さない」という対応をするところが増えました。
「未収金の精算をしてくれないと、診られない」と、かかりつけの病院に門前払いされ、「共立病院なら診てくれるか?」と、困り果てて来た患者さんもいます。
暖房なく家の中で凍える人も
SWの堀米宏美さん(27)は、そんな患者さんたちを訪問し、生活の様子をみてきました。救急搬入でしか来院しない四〇代の患者さんは、玄関の戸を外さないと出入りできないほど歪んだ家に母親と住んでいました。たまに入る建築の下請けの仕事で生計を立てていました。
また、冬は室温でもマイナスになろうかという地域にもかかわらず、ストーブがなかったり、あっても灯油が買えない世帯があります。「寒くて動けない時 は、台所のガスコンロの火で暖まっていた」という高齢者も。家の中で凍死とみられる形で亡くなっていた患者さんまで出ました。失業手当の中から一〇〇〇 円、二〇〇〇円と入院費を支払い、懐具合をみながら受診していた五〇代の方でした。
先日は、医師の入院のすすめを断り、薬ももらわず、外来途中でいなくなった患者さんがいました。病状が気がかりで家を訪ねると、家賃を一年滞納し、水 道・電気が止められたまま、人の気配はありませんでした。窓ごしに見た部屋には家具もテレビもなく、床に座布団一枚と飲みかけのお茶があっただけ。以後も 連絡がつきません。
「とにかく生きていてほしいと思う」と堀米さん。「田舎暮らしといっても高齢者の年金生活は大変だし、仕事が見つからない人は深刻。私が接してきた未収 金の患者さんには、払えるのに払わない、という人はいませんでした」。
「気になる患者さんを忙しさで流さない」
検討会では、月一回、未収金のある患者さんのリストを医事課が出して情報を共有、対応を検討します。
「外来の患者さんが抱える問題は、窓口で気付けないと、スルーしちゃう」と、医事課長の笠原千里さん。以前から、保険証がなかったり、医療費が払えない などの患者さんには声をかけ、SWの相談につなげていました。しかし、未収金のカンファレンスをはじめたとたん、気になる患者さんが、新たに何人もあがり ました。
「当然SWが把握していると思っていた人が把握されていなかったり、問題ないと思っていた方に突然未収金が発生して膨らんでいたり…」。医事課から相談室に持ち込むケースも、増えました。
こうした意識的な掘り起こしをはじめて、最近気になりはじめたことも。医師から入院をすすめられても、断る患者さんの事情です。「入院費用の心配や、仕 事を休むと生活がたちゆかない、という事情があるんじゃない…?」と話しながら笠原さんは患者さんのメモを書き、堀米さんに渡していました。
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このカンファレンスを呼びかけた山田健一次長は、「ただでさえ忙しい業務の中で、患者さんの社会背景も『気にできない』状況に陥りやすい職種や部門が出 てきます。職員からも『払わない人はずるい』『そんな人を診る必要はないのでは?』の声も出ます。意識して横の連携をつくることで、チーム医療の一環とし て患者さんの実態を共有したい」と、管理部のねらいを語ります。
「小さな病院の利点を生かして、本当は毎日でも、全職種で症例検討をするような共有をしたいんですが。まずその第一歩として、本当に最後の拠り所になっ ているかどうか、地域での存在意義が問われることの一つとして、未収金問題への病院の姿勢をはっきりさせたい」。
患者負担が重すぎる―医療制度を改善する視点で
未収金問題を捉えて
「公立病院では、一年以上の未収金が一病院あたり三三〇〇万円に(〇五年三月末・二四八病院で)」、「五五七〇病院の総額未収金は毎年約三七三億円、〇二~〇五年度の三年間の累積は八五三億円を超す、と四病院団体協議会が発表」などの報道が目立つようになりました。
「未収金が急増したのは、生活困窮者が増えているのに、高齢者の一割負担導入や、サラリーマンの三割負担など、連続して行われた医療費の自己負担増によ るものが大きい」全日本民医連・経営部の室田弘次長は、こう指摘します。
上の資料は、福岡・大手町病院(六四二床)が行った〇四~〇五年度の未収金の分析です。患者負担が重くなるにつれ、滞留額や件数が増加。生活苦が未収金の原因の多くを占めることも明らかになっています。
「先進国でこんなにも患者負担の重い国はありません。そもそも日本の医療制度を見直す必要があると思います。ですから、未収金の患者さんに対しては、 『制裁』の視点ではなく、『とことん相談に乗る』という姿勢が欠かせません。窓口業務は直接たたかいと結びついてゆく窓口でもあるんです」と室田次長。
「未収金が増加している背景や、治療を断念して病院に来られない人のことをどうするか、という目線で、共同組織といっしょに知恵を出し、工夫をして、社会保障を良くする運動につなげましょう」。
入院療養費滞納から医事課が感じたこと
―京都・北病院
経済的に困難だとは見えなかった滞納者の家計破綻が判明した事例がたてつづけにありました。
*Aさん…入院後半年を過ぎて療養費の支払いが遅れはじめ、滞納に。家族の面会がほとんどなくなりました。連絡しても支払いはなく、家族と面談すると、取 引先の倒産で不渡りが発生し、困っていたことが判明。退院の際、事務長が家族に面談、専門家に相談をすすめました。
*Bさん…入院時から療養費が滞納に。家族に督促請求書を送っても連絡はなく、電話で何度も日程調整して面談。身内の借金で、家族が四〇〇〇万円の多重債 務に追われていたことがわかりました。友の会へ入会し、無料法律相談で自己破産の手続きへ。滞納分の支払いもされました。
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困っている人が自ら相談に来るケースは少なく、滞納が発生した時、早期に事情を聞き、相談することが必要でした。「滞納は利用者・家族からのSOS」の視点を重視したいです。(別所直幸、事務)
(民医連新聞 第1396号 2007年1月22日)