ガンとたたかう子どもたち イラク医療支援は今 佐藤 真紀
JIM‐NET
(日本イラク医療支援ネットワーク)
自爆テロ、宗派闘争…。イラク国内でいまも死者や負傷者が増え続けています。そんな中でもJIM―NET(日本イラク医療支援ネットワーク)は、病院や子どもたちへ薬品などの医療支援を続けています。事務局長の佐藤真紀さんから届いた呼びかけです。
イラクでは、毎日一〇〇人以上の人びとがテロや紛争に巻き込まれて、命を落としています。
イラク保健省の中では、宗派対立や権力闘争が横行し、誘拐や暗殺、医師にも脅迫状が送りつけられています。今までに一万人を超える医師たちがイラクを 去ったとの情報もあり、結果として九〇%の病院で、医薬品などの基礎的な資材が足りない状況です。
医師たちによると、「市民生活を麻痺させようとしている人たちがいる」といいます。街のパン屋も宗派が違うという理由で脅され、とうとう街にはパン屋が なくなりました。実際、ヨルダンやシリアに数百万人が逃げるなどの「民族浄化」がすすんでいます。
JIM―NETは、ガンの子どもたちの支援を行っていますが、こんな状況で、「ガンの治療など まともにできていないのでは」と、心配でした。支援していたNGOもどんどん撤退し、私たちは予算を倍増してなんとか必要な医薬品が途切れないよう努力し てきました。その結果、小児白血病(ALL)の寛解(かんかい)導入率が八〇%という治療成績を達成できました。今のイラクの状態では驚異的です。医師た ちも「危険であっても、JIM―NETが支援してくれる限り、イラクにとどまって、子どもたちの治療を続ける」と言ってくれました。
治安だけでなく、ガソリンの値上がりで病院に行くタクシー代が払えない家族もたくさんいます。バスラの現地スタッフのイブラヒムが、その子どもたちを迎えに行き、病院まで連れて行っています。
輝くいのち、失ういのち
サブリーン(12)は眼のガンになり、二〇〇五年に右目を摘出しました。再発を防ぐため、化学療法と放射線治療が必要です。
彼女が一歳のとき、父は徴兵を拒否して殺されました。一家の収入はほとんどないので、JIM―NETが支援しています。彼女は学校に行ったことがありま せんが、院内学級に参加するようになって、絵がとてもうまいことが分かりました。彼女の絵は独特でリズムがあります。片目でもこんなにすばらしい絵を描く ことができます。サブリーンの作品でポストカードをつくり、その収益金は彼女の治療費に使われています。
悲しい例もあります。サマラのファラ(9っ)は、支援を受けてヨルダンで治療していました。しかし物価が高く、生活ができないのでイラクに戻って治療を 続けることになりました。イラクでは、治安の悪化で電話も通じない状況が続きました。宗派闘争も激しくなり、バグダッドの病院に行けず様態が悪化、〇六年 八月に亡くなりました。そのままヨルダンに滞在できたなら、きっと助かっていたでしょう。
治療を続けるために
「イラクの復興」という名で、多くのお金が費やされました。アメリカは一億ドルをかけて、ガン 病棟を含む、最新の小児病院をバスラに建設しようとしましたが、汚職などで基礎工事だけで終わりました。サマワでは、約二億ドルの日本のODA(政府開発 援助)を行うための自衛隊の派遣費は、五億ドルを超えています。このお金を有効に使えば、いったい何人の子どもたちが救われたでしょうか? イラクの小児 白血病の一日の薬代は約四〇〇円です。
今もイラクにとどまり、治療を続ける医師、子どもたちのために奔走しているイブラヒムたちの誠意には頭が下がります。そしてなによりも、ガンとたたかう こどもたちが一番つらい思いをしていることでしょう。みなさまのご支援をお願いします。
佐藤真紀(さとう まき)
一九六一年生まれ。中東の各地で平和教育、開発教育分野で活躍。イラクの白血病を支援するJIM―NET事務局長。
― 支援活動基金 ―
郵便振替口座
〇〇五四〇―二―九四九四五
口座名‥日本イラク医療ネット
(民医連新聞 第1395号 2007年1月1日)
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