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民医連新聞

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相談室日誌 連載231 ガン末期で初めてもてた自分の城 小茶(こちゃ) 幸恵

ホームレスで入院した人のアパートを探し、退院援助したケースは、SWとして数かず経験してきました。しかし、その人の医療依存度が高く、寝たきりだったら…。
 A氏(七〇代・男性)は数年前に関西地方から上京しましたが、仕事がなく路上生活をしていました。ホームレス支援団体が保護した時はすでに歩行もでき ず、嫌がるA氏を連れて当院を受診し、即日入院に。診断は前立腺癌。転移が胸椎・肋骨・骨に及び、下半身不随状態で余命数カ月と考えられ、親族の行方も分 からぬまま、病院のベッドで闘病生活を送ることになりました。
 その後、A氏のがんばりとホルモン療法などが効き、余命が年単位となり入院期間はすでに約一年、転帰先を考えなければならなくなりました。A氏が望んだ 生活はアパートでの一人暮らしです。要介護5で、癌性疼痛があるため麻薬を常用し、嚥下機能が低下し吸引器を使用しているA氏。現実的にその望みをかなえ られるか、とても悩ましいものでした。しかし、他のスタッフや地域の関係機関と話し合い、挑戦してみよう、との結論にいたりました。
 苦労の末、病院の近くにアパートを借りることができ、その望みは現実化しました。病棟スタッフは服薬管理や吸引が自分でできるよう指導し、SWも様ざま な機関が関わる合同カンファレンスを総勢一四人で開催しました。そして、介護保険や金銭管理、緊急通報システムなどのサービスを利用して、退院することに なりました。
 退院後訪問すると、A氏はベッドの上で「初めて自分のお城がもてたよ」と、とびきりの笑顔をみせてくれました。しかし一カ月後、肺炎で再入院。病室で苦 しそうに、「アパートに連れて帰って」と訴えましたが、その願いは届かず、病院で永眠しました。
 短すぎたアパート生活。しかしA氏は自分の意思で、不安を抱えながらも在宅生活を実現しました。一方で、経済的問題や療養病床の減少により、医療依存度 の高い人が、在宅生活を余儀なくされるケースも増えています。介護難民問題を訴えていくと同時に、地域との連携をさらに強化していく必要性を痛感していま す。

(民医連新聞 第1394号 2006年12月18日)