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民医連新聞

民医連新聞

病院経営管理者交流集会 ひらく「医療構造改革路線」から地域の財産・民医連病院守る「変革の構え」つくろう

 一一月二五~二六日、全日本民医連は「病院経営管理者交流集会」を開きました。病院長や看護責任者など五〇〇人を超えた参加者は、基調報告と五つの指定発言、講演(田中滋慶応大学教授)を受け、分散会とシンポジウムで討論しました。
 地域医療と国民皆保険制度が崩壊しはじめ、多くの病院が危機感を強めています。目的は、民医連の病院のトップが「医療構造改革路線」に立ち向かう「変革 の構え」を再構築することでした。シンポジウムでは、医療・経営・医師・看護・介護・国民運動の各部が総合的視点を提起し、フロアと議論、以下を確認しま した。(1)地域の共有財産である民医連病院をなんとしても守りぬく決意と戦略を打ち立てよう。(2)急激な医療制度改悪の中で、共通のマニュアルはな い。しかし、(1)病院の「規模」ではなく「機能」と「役割」が問われている。(2)地域の医療と情勢を見据え、フレキシブルで徹底した分析で自らの組織 の強み・弱みを認識しよう。(3)トップが責任をもって病院のミッション・ビジョン・ポジションを定め、アクション計画を打ち立てよう、というもの。地 協・県連に結集し、連帯と共同の力ですすめることも確認しました。

全体会での指定報告の概要です(編集部)

●「強み」を活かした医療展開へ
 沖縄協同病院 院長 西銘(にしめ)圭蔵

 経営は「入るを計って、出るを制す」が原則ですが、重要なことは「診療報酬にかかわらず、地域の患者要求に応える医療」です。
 小児救急の要求が強く、その体制を整備する必要がありました。現在、全科の医師で対応しています。当初は「内科や小児科の急患に、なぜ外科医などが対応 するのか」という苦情もありました。そこで、どの医師にも一次救急に対応可能な力があり、必要に応じてオンコール体制があるという掲示を行うと、苦情がな くなりました。
 「入るを計る」ため、自前の電子カルテを活かし、診療報酬に迅速に対応。加算も電子カルテでしっかり管理して算定。また病院経営を隠さず議論するため、 診療部長会議を始めました。そこで各科の資料を出し、討議します。昨年、収益・患者数が低かった小児科も改善され、今年は全科でトップになりました。
 「出るを制す」ため、人員配置を検討し、看護師の院内応援システムを作りました。ICUの看護師は外来へ、外科外来は小児科へなど、応援に入ります。新 規採用の薬剤審査も強化し、積極的にジェネリックへ切り替え、約二〇〇〇万円の費用を減らしました。
 経営改善にもっとも重要なのは医師確保です。沖縄では、特徴ある臨床研修を実施し、六年で受け入れた研修医数は一・八倍になりました。
 そのほか、「当院の優位性は何か」を地域の病院と比べ、整備・拡張し、「なくてはならない」病院をめざします。課題も多いが、冷静に地域のための医療のあり方を深めたい。

●新築移転3年目に黒字に転換
 宮崎生協病院 事務長 茄子田(なすだ)恒平

 〇二年に新築移転し、六〇床から一二〇床(一般の7:1が九〇床、障害者入院施設の10:1が三〇床)になりました。昨年、管理型臨床研修施設になり、初期研修医一人、後期研修医一人を受け入れ中です。
 新築移転に際し、職員で「私と民医連」の文集をつくりました。また全医師で地域の開業医を訪問、当院の地域でのポジショニングを職員で共有しています。地域の医療機関との連携強化にも努めてきました。
 診療報酬改定に際しては、いち早く方針を決定し、法人での人的集中を行いました。7:1看護への転換は、平均在院日数が一七~一八日であったため、七月 から移行できました。障害者入院施設への転換は、七月に15:1に、ついで看護補助者を看護師に変え、九月から10:1にランクアップしました。病棟看護 師数は四月から二一人・約二割の純増。
 経営実績は、外来の患者数が一日約二八〇人、前年対比一〇五%です。リハビリは日数制限後も件数は減らず、現行の呼吸器I、運動器I、脳血管IIに加 え、心血管Iも申請中です。救急車搬入台数は月三〇台で減少傾向。日当円は検査や画像診断などの引き下げで、九月は四月対比九八%でした。
 〇四年に地域連携室を設置しました。紹介入院数は新築移転後、毎年増えています。施設基準変更で、入院の日当円も九月は四月対比一一五%でした。
 経常利益は、新築移転後三年目に黒字に転換。今年上半期の利益率は四・二%ですが、これは今年度、宮崎民医連が鹿児島民医連から独立し、医師研修委託費 が今年度大きく減少した影響です。施設基準変更の効果は下期に現れると思います。

●都市の医療過疎地で病院を開設して
 大泉生協病院 院長 一志(いっし) 毅

 都心の五区で事業を展開する東京保健生協が、練馬区に進出した経過を報告します。老朽化した鬼子母神病院(九四床)と同じ二次医療圏にあったため「移転」が可能でした。
 練馬区は当時人口六三万人、都内で四番目に大きく、人口一万人当たりの急性期病床数が少なく、二七床(二三区平均九九床)でした。
 一九九四年に六二二人の組合員で大泉学園診療所を開設、二〇〇二年に病院を建設する時点で、組合員数は六〇〇〇人、いま九二〇〇人です。一九九八年に土 地を購入、しかし第一種低層住宅地域にあり、病院を建てるには、区長の許可が必要でした。組合員さんの運動で署名一万筆を集め、三度の公聴会で住民の合意 を得ました(反対署名一五〇〇筆)。
 開設から四年で、外来件数は七〇〇から四〇七八に伸びました。いま新入院患者数は一三二人/月、救急入院率六八%、在院日数は一八・一日です。組合員さ んの力で自治体健診は二八八一に。リースが終了する五年目は黒字化する予定です。
 その後、区の人口は六八万に増え、順天堂大学病院(四五〇床)が進出してきました。しかし二番手である当院は、外来が手狭になり、手術室も足りないな ど、増築が課題になっています。今後の重点課題は、7:1看護、電子カルテ、クリティカルパスの導入などで、入院医療の質を向上させること、地域医療連携 室を立ち上げることです。

●病院経営に必要な「特徴ある医療」を
 コープおおさか病院 事務長 渡部哲也

 当法人の組合員数は約八万世帯。当院の病床は一六六床(一般一一六床、回復期リハが五〇床)で す。四つの課題にとりくんでいます。一つは、法人内で病院・診療所・介護事業所の連携を強め、組合員の健康を守ることです。そのため医療情報の共有が重要 です。法人全体で電子カルテ導入を検討、二四時間体制で健康を守ることをめざしています。
 二つめは、健康づくりを支援する病院になること。一万人「大腸がん検診」にとりくんで、要精検判定が一~二%、早期発見に役立ちました。また、検査や外 科手術で経営にも貢献。今後も「生活習慣病予防健診」やマンモグラフィを充実したい。
 三つめは、地域の中での役割発揮。療養病床を回復期リハビリ病棟に転換し、同時に地域連携室を強化して、他院からリハ目的の入院紹介が増えました。病院 間の信頼関係が深まると、一般病床の紹介も増加。他院から安全大会やNSTにも参加があります。今後、リハ機能と体制充実を図り、「地域で完結する医療」 をすすめます。
 四つめは、医師や職員が育つ病院づくりです。現在は、常勤医師が一六人、歯科医師が二人で診療をしています。〇七年から、協力型臨床研修指定を取得し、一年目研修医の受け入れをめざします。
 病院経営には「特徴ある医療」の押し出しが重要です。内科で「消化器センター」を核とする医療構想などを地域とともに考えていきたい。

●「全床療養病棟」からの転換
 札幌丘珠病院 事務長 澤本 彰

 当院(全床療養型一五〇床)は、毎年約一億円の黒字でした。しかし、区分1の比率が六七%だっ たため、診療報酬改定での試算は年二億円減収に。そこで、一病棟を七月に閉鎖、一〇〇床に縮小した療養病床に、区分2、3の患者を集めました。区分1の患 者は、空き病棟で開いたショートステイ(二五人)で受け、リハ室を縮小して認知症デイ(一二人)も開きました。
 療養病床では七月から病棟看護師を六人増員、20:1にシフト。四~六月の稼働率八六%から、九四%(七~九月平均)に、区分2、3の比率も六六%(七 月)から八一%(一〇月)にアップ。患者重症度も上がり、一一月から二交代・三人夜勤も試験的に始めました。リハビリも展開しましたが、一〇月の入院日当 円は三月対比九〇%でした。入院基本料が八三%に減ったためです。リハは一五三%でした。
 ショートステイは、病院で医療処置が可能なため、民医連外の紹介が増え、順調です。介護事業利用者は、療養病床の区分1の患者が約六割、後は新規利用者です。
 一〇月収益は、四月対比で、外来一〇九%、介護二〇一%に対し、入院が六三%で、計八〇%に減少しました。一方、費用削減は九二%。結果、経常利益は、 四~六月は黒字でしたが、七月は二四〇〇万円の赤字、上半期は四〇〇〇万円の赤字です。いろいろと努力していますが、来年度、赤字を免れる試算には至って いません。


 

医療提供体制の方向と地域病院のあり方は―
 田中 滋・慶應大教授

 慶應義塾大学の田中滋教授が「今後の医療提供体制の方向と地域病院のあり方」と題 して講演。厚労省「医療施設体系検討会」座長や「中医協診療報酬調査専門組織・医療機関のコスト調査分科会」会長、社会保障審議会や日本医師会の委員など を務め、日本の医療政策を担う一人です。

□  □

 教授は、最近のデータから、特に経営が厳しい病院三種をあげました。都内の中小民間病院、過疎地の病院、自治体病院です。これからどのように「経営」転換をはかるかの正解は、複数ありうると、のべました。
 「新しい医療計画制度」のねらいとして、三点紹介されました。一つめは「地域で完結する医療」への転換。医療機関間で患者を奪い合うのでなく、各医療機 関の機能を使い、患者を切れ目なく診ようというもの。地域医療連携や、情報公開がさらに必要です。二つめは、「疾病ごとに診療圏域と場所を柔軟に考える視 点」。訪れた患者に最善の医療をという「待ち」から、自らの医療機能を開示し、患者や他の医療機関に選ばれる、「出て行く」姿勢に変えること。三つめは 「地域ごとに創意工夫できる体制整備」。国の求める医療を忠実に反映する整備ではなく、地域にある医療機能に応じて特色ある医療提供体制を整備しよう、と いうもの。
 また教授は前段で、格差社会の問題にふれました。「小さな政府」論は、財政支出の無駄を減らし、国民に税金が戻る好印象を与えるが、実際は「政府負担を 減らし、利用者負担を増やす」もの。負担は大多数の国民が税や社会保険で果たしており、さらなる利用者負担増は、弱者に負担を集中する。市場経済論者もこ れには必ずしも賛成していない、と語りました。
 そして、格差の存在が問題なのでなく、下層ほど貧しく不便になり、抜け出す機会もない「階層固定社会」であることが問題、と指摘。
 医療や教育に「効率化」と称して「世代会計」や「個人会計」という生産と同じ尺度を持ち込むべきではない、と批判。医療や教育の原則は、フリーアクセ ス=「金銭的バリアなく必要な人が受けられる」ことであり、日本にはこの「公益」の再構築が必要だと問題意識を語りました。

(民医連新聞 第1394号 2006年12月18日)