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民医連新聞

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9条は宝 発言(20) 「一人でもやる」一滴になり 25条・9条守る大河を

 「九条の会・医療者の会」の呼びかけ人・中沢正夫さんも「運動を大爆発させるには?」と考え続ける一人です。

エモーションが動くとき

 ねぶた祭には「はねっと(跳ねっ人)」という、神輿(みこし)と見物人をつなぐ盛り上げ役がいます。ねぶたの前方で跳ねたり踊ったりして、祭の一体感をつくる。九条の運動でも「はねっと」が数多く生まれるといいですね。
  若者にも年寄りにも、跳ねてもらうにはどうするか、よく研究すべきだと思います。ぺ・ヨンジュンとかハンカチ王子とか、自分を投影して夢中にさせるもの が、いつの時代にもあります。そんなエネルギーが引き出されると、運動が力強く変化するのですが…。
  近ごろ、ダボハゼみたいな若者が減ったんじゃないですか。「面白い」って飛びつかない。他人や回りの様子を見て合わせ、自分をさらけ出さない。だから、群 れていても親友ができないし寂しい。そういう若者は、理解したから行動するとは限りません。講演を聴いて「よかった」でおしまい。
  行動に移すには、ジャンピングボードが要ります。エモーションが動くことです。「お前も入れ」という熱い呼びかけ、感情を揺さぶる体験など…。「友」とい う文字は、手と手で何かをささえ合う形を表しています。傷つくことを恐れず、みっともない姿も見せて、ぶつかり合って本当の友になるんです。そうしてでき た仲間は強いです。
  何か一味違うと、大勢の人が参加します。僕の関わった運動では、長良川の河口堰(ぜき)反対、薬害エイズなど。共同作業所づくりもそうです。障害者の「地 域で暮らしたい」という思いに共感して、植木屋のおじさん、教会のシスター、地域に住む様ざまな人が、理屈抜きで、手を貸してくれました。

憲法二五条で跳ねて

 「憲法より食うことが先」、これが多数の本音かも知れません。改憲の動きは早い、でも、目の前の仕事や生活に追われる人に「九条」は遠い。一方、人間らしい生活を保障する「二五条」も解釈が変えられ、問題が吹き出しています。もう黙っていられません。
  二五条を守る運動は、必ず九条につながります。たとえば、障害者の集会は切迫感があって「投票で政治の大本を変えなければ」と障害者がつっかえながら発言 している。そして「障害者を一番つくるのは戦争だ」という。
  二五条の跳ねっ人は九条でも跳ねる。九条をシンボルに、現実的な運動を二重、三重につなげていく。そうすれば、きっと広がります。

「丸くやれる人」でなく

 渋谷で、患者さんが体験した話ですが、警官に「リュックを開けて見せろ」と言われ、押し問答になった。回りの人に「不当だ」と訴えても、誰も振り向かないのだそうです。つまり、この状況では、たいていの人が開けちゃうのでしょう。彼はガンコ者で、とうとう見せなかった。
  子どもの問題のシンポのときにも、発言したい人大勢のブーイングの中で、三〇分も一人で自己主張を続けた人がいた。そのガンコぶりと反骨さに、僕は妙に感 動してしまった。「丸くやれる人」が日本では好まれます。でも、それだけじゃいけないのです。
  「大河も一滴の水から」といいます。「個」の確立された一滴が集まればそうなるでしょう。逆に「一人がやってもしょうがない」と思う人が集まると危険です。強い情報が与えられたとき、雪崩を打ってなびいてしまう。
  「一人でもやる」。そういう「個」をもった人が多数いれば、議論だって徹底してできるし、日本の民主主義も成熟してくるでしょう。すべてはここにかかって います。大それた一滴でなくとも、普通の一滴でよいのです。育ち、育てるために、智恵を集めたり、勉強していきましょう。


 

中沢 正夫さん(精神科医)
 1937年、群馬県生まれ。元代々木病院副院長。群馬大学病院時代から精神科医療の改革にとりくむ。障害者の運動、若者や高齢者、子育ての悩みに心を寄 せた著作が多数。近著に『精神科医がめざす近隣力再建』(東信堂)、『精神保健と福祉のための50か条』『精神科看護のための50か条』(萌文社)

(民医連新聞 第1392号 2006年11月20日)