障害者自立支援法 重い負担・報酬削減で自立破壊 人間らしい生活保障に逆行
障害者自立支援法が施行されて三カ月。利用料・医療費の一割負担が重く、「障害者自立破壊法だ」との悪評が高まるばかりです。施設の受け取 る報酬も大幅にダウン、まともな賃金保障もない中がんばっている施設職員に冷水を浴びせました。障害が重いほど負担の重い「応益・定率負担」が、当事者た ちを苦しめています。長野と北海道のNPO(非営利法人)を取材しました。(小林裕子記者)
知的重度者の居場所を
ケアホーム萌生(ほうせい)
長野県飯田市にある「NPO法人ひだまり」は、今年三月にケアホーム萌生を開設し、重度知的障害者三人を受け入れました。ひだまりは、高齢者グループホーム二カ所(民医連加盟)、宅老所、子育て支援室などを運営しています。
「知的障害者を地域へ」の県の方針で、西駒郷地域生活支援センター(定員五〇〇人)から、軽度の人たちはグループホームなどに移り始めました。しかし、 重度の人の受け入れ先は少数。職員の資格・配置数の基準が高く採算が悪いためです。
ひだまりが萌生の開設に踏み切ったのは「NPOの役割」だから。障害者や家族の要求を国や自治体に届け、地域で支援する関係を広げたいからです。いま朋 生に地域の暖かい目が集まり、住民から農地を借りて牧場をつくる計画もすすんでいます。
自立支援法は「地域生活への移行」を掲げていますが、それに見合う報酬は出ません。施設長の白水徳彦さん(SW)が示した予算書では、看護師二人と介護 福祉士を含む換算四・五人の年間総人件費が九八〇万円足らず。「有資格者らしい待遇をしたいが、この制度では保障できない」と白水さん。体調の変化に細か く気を配り、昼夜にわたる気の抜けない介護を、ボランティアさんの力を借り、スタッフの熱意で乗り切る運営です。
「報酬を上げて、と単純に言えない。入居者負担も上がるから」と白水さん。彼がひっかかるのは、自立支援法の「障害者にも応分の負担を求める」という主 旨です。「いままで『応分』な処遇などしてこなかった」と思うのです。「負担を重くし、ジュース一本の楽しみを奪うようではいけない。自立には安定した収 入が欠かせない。企業は障害者の雇用に責任を持つべきだし、社会が障害者を人間として尊重するようにならなければ」と語ります。
精神しょうがい者の施設も厳しく
ダリアの郷
北海道札幌市のNPO「精神障害者を支援する会」は相談事業のほか、ダリアの郷支援センター、共同作業所HAPPY、グループホーム三カ所と共同住居一カ所を運営しています。
四月から、グループホーム入居者Aさんについての報酬請求書は三四二〇円減額。「利用者が負担する分」で、Aさんは減免対象から外れてしまったのです。 しかし、NPO専務理事・細川久美子さんは、Aさんから負担をもらえるか、もらわないなら運営費・人件費のどこを削れるか? と考えています。
報酬が月単位から日単位になり、施設運営をいっそう厳しくしました。入居者が入院していた日数の報酬はカット。職員は、入院中も着替えを運んだり様子を 見に行ったりなど、実際は忙しいのです。「入院しそうな状態の人を断るホームが出るほど。治療しながら住むところなのに…」と、細川さんは嘆きます。報酬 単価が低く複雑な体系になり、書類が増えたことも施設にとって負担です。
ダリアのオープンスペースに来ているBさん。障害二級の年金月約六万円で、ホームヘルパーを利用し一人で生活していました。無料だったヘルパー利用料が 四月から七五〇〇円になり、ヘルパーを止めました。しかし手助けのない生活に疲れ果て、ダリアに来ても寝てばかりです。Cさんは障害一級の年金月約八万円 と、作業所で得る工賃五〇〇〇円(月額)で、アパート暮らし。ヘルパー利用料が一万七〇〇〇円になり、ヘルパーを止めるか、実家に帰るか、思案中です。
自立していた人の生活を壊す「自立破壊法だ」と細川さんは怒ります。生活と健康を守る会の生活相談に携わって二八年間です。関わっていた障害者が、ささ えの母親の入院に悲観して自殺。いたたまれない気持ちで市に要求し、グループホーム「若根荘」を一九九六年に開設したのが、NPOの始まりでした。ダリア にはいま六五人の利用者が登録しています。細川さんたちの活動で、地域との助けあいが育ち、障害者にアパートを貸してくれる大家さんが二人生まれました。
昨年の「自立支援法」反対運動は、様ざまな障害をもつ当事者が手を結び、広がりました。札幌市は、障害者のうち国保加入者の医療費を、二年間は五%負担 ですむよう助成することに。ところがその受給者証が届かないという事態が四・五月に起き、「病院に行けない」という人が続出しました。「医療費減免の継 続、拡大などを市に求め、国の政治を変えて、障害者であっても人間らしく生活できる条件を広げたい」。細川さんの言葉は切実です。
【障害者自立支援法】障害者のサービス利用が原則一割。施設の報酬も減額に。厚労省は「生活保護への移行防止」で「対象にならない額まで負担を引き下げる」とするが、「境界層該当者」の申請では生活保護並の調査がされる。障害年金をそっくりはぎ取られ、自立できなくなるケースも。
(民医連新聞 第1383号 2006年7月3日)