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民医連新聞

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9条は宝 発言(15) 子どもたちには、弾丸よりサッカーボールを

 世界はW杯で沸いています。サッカーは世界中で愛されるスポーツ。イラクを訪問し、子どもたちにサッカーボールを贈った女性歯科医師がいます。楠田昌子さんは、「九条の会・医療者の会」の会員で、長崎の「城山憲法九条の会」の呼びかけ人でもあります。

 イラクで「戦争終結」が出されたあとの二〇〇三年一〇月、人間の盾としてイラク侵攻に抵抗した福岡の木村公一牧師に同行し、イラクへ向かいました。子どもたちにサッカーボールを届けるためです。

爆撃の合間サッカーする子ら

 イラクの子どもたちは、本当にサッカーが大好きです。爆撃されていた時も、少し間があると外へ出て、ボールを 蹴っていたそうです。子どもたちにとってサッカーは、悲惨な状況の中の心のよりどころだったと思います。でも本物のサッカーボールを見たことがない子ども たちがほとんど。その子たちに木村牧師は、「本物のサッカーボールを贈る」と、約束していました。
 彼は帰国してから市民団体に呼びかけました。高校生たちが募金活動をしてくれるなど、全国から寄せられた募金で三八個のサッカーボールを贈ることになりました。
 イラクの子どもたちは、全身で喜んでくれました。日本の子どもたちなら、たぶん感じたことのない、「平和にサッカーができる」という喜びです。
 お礼の寄せ書きには「サッカーボールありがとう。でも、兵隊はいりません」とありました。一三歳の少年の言葉です。そのメッセージが私の心に深く突き刺さりました。

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 医療支援で病院を回りましたが、悲惨でした。解熱剤や下痢止め、傷を縫う針と糸すらありません。子どもの白血病やガンが増えているのに、抗ガン剤や痛み止めもありません。なすすべもない現地の医師たちから「医療支援を」と、求められました。
 バクダッドやバスラでは、武器を手にした兵士たちがたくさん。道路には戦車がいたるところにあります。装甲車の機関銃は、行き交うイラクの人たちに照準 を合わせていて、「私たちも銃口の先にいる…」、そんな気分になりました。

日本を出ると戦争があった

 日本ではイラクの状況が知らされていません。武装した兵士から受ける圧迫感、毎日のように爆撃される恐怖、どれほど平和がありがたいものかを感じました。紛争や戦争は現実です。命やあらゆるものを破壊し、日常の生活をも奪います。
 「日本を出ると、戦争はある」、そう自覚したのは、青年海外協力隊に参加した時でした。訪れたアフリカのマラウイには、周辺国の内戦から逃れてきた人びとの難民キャンプがいくつもありました。
 日本の平和は憲法九条のおかげです。この六〇年間がその証明です。九条を放棄することは、今の生活を放棄することにつながります。九条は日本の過去の、 アジアに対する反省でもあり、友好の証明です。日本だけではなく、アジアや世界の問題としてとらえるべきです。

自分で知り、考え、決断する

 私の患者さんにも被爆された人がたくさんいます。その苦しみは、今の私たちの想像を絶するものです。その悲しみ を自分自身に重ねるため、城山憲法九条の会では戦争・被爆体験を聴いています。映画「日本国憲法」上映会を開いたり、「北朝鮮が攻めてきたらどうする?」 という世論を検証するため、研究している方にも話してもらいました。
 何よりまず、現実を知ることから始めなければ。大切なことは「正確な情報を持つ」ことです。マスコミや政治家の言葉をうのみにしていると九条は守れませ ん。自分で知り、考え、決断することが求められています。


 楠田 昌子(くすだ まさこ)さん(歯科医師)

 岐阜県生まれ。大学卒業後、夫(歯科医師)とともに長崎へ移住。夫の祖父の代から続く楠田歯科診療所でともに診療中。地域の9条の会などを通して、各地で講演も行う。

(民医連新聞 第1382号 2006年6月19日)