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民医連新聞

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フォーカス医療・福祉の実践(3) 「限りある命」離別の痛みに紙芝居を ―兵庫・東神戸病院ホスピス(緩和ケア病棟)

 ホスピス(緩和ケア病棟)は、がんの根治治療が不可能な疾患で、終末期にある患者様とその家族のケアを行う病棟です。終末期の患者様たち は、肉体や心、社会的な痛みのほかに、スピリチュアルペインと呼ばれる独特の痛みにも悩まされます。東神戸病院のホスピス(二一床)では、病棟看護師がつ くった紙芝居をこのケアに使っています。病棟師長の佐井利恵子さんからの投稿です。二つある紙芝居のうち、一つは、絵本として出版されました。作者の大谷 智加子さん(34)にもききました。

 いのちや死について、看護師と患者様が対面して話すことは、ときにお互い緊張し、その場にいることさえ苦しくなる時間になります。
 「大人に紙芝居」は違和感があるかもしれません。しかし、紙芝居では、受け手の患者様や家族が主体になれます。子どものころ誰もが触れた紙芝居で、優し い絵と、心を込めて読みあげる言葉は思った以上の効果があります。どう感じたかを聞きながら、患者様それぞれのペースで、語らいを心の奥へと導いてゆくこ とができます。

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 『時計』という紙芝居は、この世に生まれる生き物たちが、神様から天国に集まる時間がセットされた時計を渡され る、という場面で始まります。それぞれ自分らしく生き、時計のベルが鳴って天国に着いた時、神様が「形も違う、色も違う、大きさも違う時計…じゃがどれも 光り輝いておる…」と、ひとつひとつの時計を愛おしく思った、という場面で終わります。

 『白うさぎ 黒うさぎ』は、二匹の仲良しうさぎのお話。ある日、黒うさぎが病気になり、死んでしまいます。残された白うさぎが、黒うさぎに手紙を書く、という物語です。

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 心を閉ざしがちだった男性患者様とも、紙芝居を介して、関係が良くなりました。見終わって「時は神なり。この世で起きることすべて、神様が用意された」と、自身の死生観を語り、過去に何度も足を運んだ中東への旅行の写真をみせてくれるようになりました。
 「私の気持ちそのもの。ぜひ子どもや家族にも紙芝居をしてやって。私のお葬式に、この本を配りたい」と望んだ若い女性患者さんもいました。
 また、遺族からも共感されています。夫を亡くした六〇代の女性は、自身と重ね「私も主人に手紙を書いてみようか」と、話しました。

「看護師も不安だった」 作者・大谷(ゆきとちかこ)さんの話

 受けもっていた患者さんが、楽しそうに趣味の話をしていたと思ったら突然、「(余命は)あとどれくらい?」と聞いてきて、自分でも納得できる答えができ なかった経験があります。「終末期の患者様と接して、知らずに傷つけていることがあるかもしれない」…と、不安に思うことがありました。
 そんな時、終末期の在宅患者様に自作の紙芝居を見せているという医師の講演を聞きました。そこで、私も紙芝居をつくり、患者様に見てもらうことにしまし た。「限りある命、ひとつひとつが大事だよ。あなたは宝」と、全ての人に贈りたいと思うメッセージを物語にしました。
 絵本の出版は、遺族からのすすめで実現しました。患者さんの枕元で、息子さんがこの絵本を読むと、意識のないはずの方が涙を流したこともあります。亡く なる一時間前のことでしたが、「お父さんに分かるんや!」と、ご家族は喜びました。
 誰でもできるグリーフケアのアイテムが、絵本だと思います。作ってみて良かったです。

『白うさぎ 黒うさぎ~伝えたいこと~』(新風舎)ゆきとちかこ著

(民医連新聞 第1381号 2006年6月5日)