私たちの憲法学習が本になった 事例にこだわって1年 北海道・月寒医院
「私たちの憲法学習が本になった!」。北海道の月寒医院では、二〇〇四年七月から約一年間、スタッフ全員で憲法学習を続けました。院長の升 田(ますだ)和比古医師は、始めるにあたり、「三カ月続けば立派。六カ月続けば本にしよう」とスタッフを励ましました。その公約どおり、出版が実現しまし た。
(横山 健記者)
「事例にこだわって学べば、憲法の大切さが分かる!」と、升田和比古医師は、水曜日のカンファレンスの後に、「憲法一〇分間討論」を提案しました。
すすめ方は、升田医師が「何か事例はありますか?」と口火を切り、スタッフが外来や訪問看護、デイサービスで知った患者さんの悩みや生活実例を報告しま す。そこから憲法の、どの条文に関わりがあり、何が違反しているか、どうすれば解決できるかを討論するというもの。分からない部分は「宿題」にして、次週 の朝会で担当になった人が報告します。一年間で約四〇例を学習しました。
「みんなの成長実感した」
特に力が入ったのは、戦争体験を聴く企画と認知症などの患者さんの自己決定権についてでした。
憲法九条の学習のため、患者さんに来てもらい、戦争体験を聴きました。その一人は、市会議員や福祉法人理事を務め、現在は当診療所のデイサービスを利用 している九〇代の男性です。危険思想の持ち主だという理由で捕まり、拷問を受け、悲惨な戦争を生き抜いたという話でした。
実は、この方については元気で長生きするにはどうすればいいか、カンファレンスを重ねていました。「認知症にならないよう、定期的に活躍の場を設けよ う」と、この「戦争体験を語る会」を考えました。「民医連ならではの企画。語る人も高齢になり、話は今しか聞けない」と、升田医師。
軍国乙女だった時代を語った女性もいます。感動したケアマネジャーの柏原広美さんが、「体験談を載せたい」と話すと、その人は文章校正にも参加してくれたそうです。
認知症や終末期の患者さんについて「どこで最期を迎えるか? 本人の意志はどうか?」を憲法一三条(幸福追求権)や「医療生協の患者の権利章典」をもと に、人間として尊重されるとはどんなことか、みんなで議論しました。
「患者さんとの何げない会話でも『憲法二五条が保障する生活ができていないかも』と考えるようになりました。若いスタッフも憲法学習を真剣に受け止め、 回を重ねるうち、だんだんと自分の意見が言えるようになりました」と、外来看護師の谷地美利子さん。一年間でみんなの成長を実感しています。
日本一のカンファレンス
出版にあたっては、患者さんのプライバシーに気をつけました。掲載を断られそうな事例も、率直に患者さんや家族に相談しました。その結果、了承してもらい、「読んでよかった」と喜んでもらえました。
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学習会には、併設する訪問看護ST、ヘルパーST、デイの職員が参加します。みな医療から福祉にわたる複合施設 だからできる「日本一のカンファレンスだ」と自負しています。憲法学習を続けられた秘訣は、「何もなければ無理せず終わること」だそうです。「職員を引っ 張るリーダーの役割は果たせたかな。興味のある部分だけでも読んで、この本を参考に『これならウチもできるかな』と、取り入れてくれたらうれしい」と、升 田医師は笑います。
(民医連新聞 第1375号 2006年3月6日)