改定介護保険法 高齢者守るには 結合させよう “ロマンとそろばん”
4月から改定介護保険法が施行されます。介護度区分が変更になり、軽度者の新介護予防への移行が始まります。全日本民医連の介護・福祉部は緊急方 針を出し、「たたかいと対応を急ごう」と呼びかけました。12月に実施した介護事業責任者会議での山形・庄内医療生協の松本弘道さんの発言概要と、山田智 部長の談話を紹介します。
介護事業責任者会議より |
地域の知恵と力出しあった高齢者の居場所づくり
庄内医療生協専務理事・松本弘道
介護報酬が下がり、人件費や採算性など困難が多い中、経営幹部の多くは介護事業になかなか手が打てない、という 悩みを抱えています。しかし民医連は、この半世紀、訪問看護一つとっても、診療報酬がつかない時期から実践し、運動で制度化を勝ちとってきました。介護に もその視点が必要だと思うのです。
一〇月の改悪で、施設にいられない人、デイに行けない人が出ています。低額で入れる施設、二四時間のサポート、夜間のステイ、食事会や配食サービスなど、すべきことは多くあります。経営幹部に求められているのは「ロマンとそろばん」を結合させることではないでしょうか。
まちづくり協同組合で実現した事業
庄内では、「協同の棚(たな)卸(おろ)し」と称して、医療生協、購買生協、社会福祉法人、調剤薬局、農民連などが力と知恵を出し合い、手を結び、「まちづくり協同組合」をつくり、一組織ではできない事業を実現してきました。
二〇〇四年六月に、三〇人規模の高齢者アパートをつくりました(老人住宅事業)。療養型病棟にいるような医療依 存度の高い人が入居しています。開設後の入居者四一人のうち、胃ろうが一三人、バルーンが三人、透析が六人、IVH(中心静脈栄養)が一人です。個人負担 は、部屋代と食事と介護保険の一割負担を含め平均八万五〇〇〇円です。一〇月の介護保険改定以降も、ほぼ同額の負担で済んでいます。また、常勤ヘルパー約 一〇人を雇用し、地場の食材料を使うなど、地元経済をうるおしてもいます。
組合の経営を説明します。建物は「組合」加盟の有限会社が建設し、月額一八〇万円で借り、水光熱費・食事代を合わせ、運営経費は三二〇万円ほどです。
入居者からもらう額は一五〇万円ほどで、一七〇万円の赤字です。不足分を「組合」に加盟する組織が「分担金」と して負担します。入居者三〇人に対するサービスの報酬が六〇〇万円で、その直接原価が四五〇万円の組織は、一〇〇万円を分担金で負担しても、五〇万円プラ スというしくみです。
行政がしない仕事を
〇五年四月には、一〇人が泊まれるデイサービス施設をオープンしました。月額五万五〇〇〇円で暮らせます。高齢者率が三割を越える地域です。「今晩何とかして」と言われたら「あいよ」と即日ステイを引き受けられる施設をつくりました。
これらは、行政がしないから、苦し紛れに自分たちでしたという面があります。地域の人たちと話し合って生み出したものです。「分担金」も、利益の一部を削るのですから、緻密な話し合いで腹を固めなくては決まりません。きれいごとでは語れない葛藤がありました。
介護予防にアプローチ
庄内では、〇三年から実施したフィットネスの経験を踏まえ、〇五年七月には「おたっしゃ庄内21」を立ちあげ、介護予防にもアプローチを開始しました。新予防給付について各業界がビジネスチャンスとして動いており、私たちの機動力が試されます。
先日、新潟のある施設長が言っていました。「家族や知人がいて、行きつけの店があり、見慣れた風景、落ち着く場 所があって、入居者も地域に何か返すものがあって、生活なんだ。人里離れた大規模の施設は、暮らしを根こそぎ置いて来させる。収容型施設からまちに帰すこ とが課題だ」と。私たちも同じ気持ちでやってきました。
経営幹部は、経営を破綻させるわけにはいかないのでシビアです。まして診療報酬もマイナスですから、考えの大部 分が医療に向いていて当然です。しかし資本力に負けないで、介護保険変質の流れを止める力はなくとも、「流れに沿いながら流されない」介護事業をつくって 実践することが必要だと思います。
山田智介護福祉部長にきく
「たたかいと対応」の視点でいますぐすべきこと
四月から全面実施される、改定介護保険法は、介護サービスの体系そのものを抜本的に見直すものであり、増え続け る介護給付費を抑制することが最大の目的です。このもとで、どのように利用者・高齢者の生活と人権を守っていくか、「たたかいと対応」の視点で、制度改善 の運動や事業活動にとりくむ必要があります。
自治体の事業計画は地域によってまちまちですが、住民の実態や要求に沿ったものになるよう、私たちの提言や提案が重要です。地域の要求に応え、小規模・多機能の介護拠点づくりや高齢者の住まいづくりなど、新たな事業へのチャレンジも運動としてとりくみましょう。
なかでも、介護予防は軽度者の介護サービスをめぐる「たたかいと対応」の大きな焦点です。介護予防の対象になれば、訪問介護などの介護サービスの利用が大幅に制限されることになります。
まず、対象者をしっかり把握する必要があります。軽度の方がいっせいに新予防給付に移るわけではありません。現 在の利用者のうち、要支援・要介護1の人の更新時期をつかみ、更新によって介護度がどう変化するのか、を調べる必要があります。認知症自立度でランクⅠ以 下なら、介護予防に移ると考えてよいでしょう。該当者一人ひとりに、個別の対応を準備していく必要があります。
二つ目に、三月末までに更新時期を迎える人への対応はすでに始まっています。しかし、地域包括支援センターは、 三月時点では始動していません。介護予防の対象だと認定された人の「予防プラン」は、居宅介護支援事業所に委託される方向です。すでにケアマネジャー対象 の介護予防ケアマネジメントの研修会が各地ですすめられています。それに対応することが必要です。
新予防給付の対象者を決める際、これまで以上に重視されるのが、主治医意見書です。そのポイントは認知症にある といっても過言ではありません。調査員や認定審査会が認知症を軽く判定しても、主治医意見書に問題行動などが正確に記されていれば、今まで受けていた介護 サービスが必要と判断されるでしょう。認知症など利用者の状態をしっかり把握し、主治医に情報を集中することが大切です。
同時に、「いつまでも元気で生きいきと暮らしたい」という利用者・高齢者の要求に応え、地域で選ばれる事業所として、介護予防事業に積極的にとりくみましょう。運動機能の向上、栄養改善、口腔機能の向上など、民医連の特徴を活かし、準備をすすめましょう。
(民医連新聞 第1374号 2006年2月20日)