遠距離・入市 被爆者がんなど発症2倍超/熊本の比較調査で原爆訴訟励ます結果
熊本民医連が昨年からとりくんでいた被爆者健康調査・プロジェクト04の結果がまとまりました。爆心地から二㌔以遠で被爆した「遠距離被爆 者」、また、投下後二週間以内に爆心地に入った「入市被爆者」の健康状態が、被爆していない人より悪く、がんやいくつかの疾患の発症者数が多いことなどが 明らかになりました。完全な非被爆者を比較対照にした被爆者の健康調査はこれまで少なく、この結果は、日本政府の現在の原爆症認定制度の欠陥を明らかに し、被爆者のたたかい・原爆症裁判に役立つ重要なものになりました。(編集部)
二八万人いる被爆者のうち、原爆症に認定されている人は一%にもなりません。認定の対象は、爆心地から約二㌔ま での近距離被爆だけ、遠距離被爆や入市被爆者は除外されています。そんな中、各地の認定を除外された被爆者たちが、国を相手に原爆症認定を求める集団訴訟 を起こしています。この被爆者健康調査は、そんな被爆者のたたかいを支援するとりくみでした。
調査結果が示したもの
調査は、〇四年六月から〇五年三月まで、熊本県在住の被爆者二七八人と非被爆者五三〇人から聴き取り、比較する方法で行いました。調査対象者のうち、入市被爆者と二㌔以遠で被爆した人は二二〇人でした。
分析は二人の大学教員の力も借りながら、平和クリニックの牟田喜雄医師があたりました。
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「被爆後から四五年一二月までに下痢や脱毛、紫斑などの『急性症状』が出た人は六五%と、過半数を超えていた。 このことで遠距離・入市被爆者も放射能の影響を受けたことがわかる」、「遠距離・入市被爆者のがんの発症者が一般の人の二倍を超していた」…牟田医師は調 査結果を、「急性症状」や「悪性腫瘍などの発症」など要点で考察し、まとめました。
現在の原爆症認定基準が、被爆地に残った放射線を含む雨やちりの残留放射能、水や食べ物を摂取しておこる内部被 爆を、ほとんど無視していること、認定基準の基にされている研究が古く、被爆の後障害の実態と乖離(かいり)している恐れがあることなど、矛盾を鋭く指摘 する内容です。
「いわゆる遠距離被爆者や入市被爆者にも、被爆による急性症状や後障害が認められることが推定された。直接被爆だけでは説明し難く、残留放射線による被爆、特に内部被爆を考慮する必要がある。
遠距離被爆者や入市被爆者に認められる障害については、被爆による後障害である可能性は否定できず、適切に評価されるべき」と結びました。
この調査結果は熊本の集団訴訟の証拠として提出し、医師が法廷で証言します。また、審理日程に長崎での現地検証が予定されています。現地検証は、他県の原爆症訴訟ではまだどこも実現していません。
職員の8割が手弁当で参加
この調査では、四九五人(のべ八四八人)の調査員が土日の休日に、各地から調査ボランティアとして参加し、やり あげたものです。熊本民医連は、調査事務局の専任で看護師を派遣したほか、医師二〇人をはじめ、職員四〇七人が参加しました。全職員の八一%にあ たります。また、青年職員の半数以上が参加しました。
調査事務局に配置された看護師の川端眞須代さんは「科学者として真実を明らかにする良い機会でした。私たちの良心が実を結べば」と語っていました。
(民医連新聞 第1365号 2005年10月3日)