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民医連新聞

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“もとの身体をかえして” アスベスト被害…事態は深刻

聴き取り調査相談会ひらく
尼崎医療生協

 アスベストの被害者が住民からも発生し、衝撃を与えています。尼崎医療生協は、七月三一日、緊急にクボタ 旧神崎工場の周辺に住む組合員さんを訪問し、聴き取り調査を実施、近接する団地集会所で相談会を開きました。職員と組合員など、のべ六七人がつかんだ被害 の実態は深刻。同生協では、結果をもとに、行政へ働きかける予定です。(小林裕子記者)

 クボタ旧神崎工場に隣接して建つ、つばめ団地。築三四~五年で、二〇〇世帯が入居中です。ここに尼崎医療生協の 組合員が約九〇世帯、周辺を含めて約三〇〇世帯が住んでいます。支部長の田部修さんの家は、相談会に貸し受けた集会所の真向かい。「私らも知らなかったん ですわ。アスベストを使っていたなんて、テレビで知ったんや。どないしたらええんか。具合い悪くなった人が幾人も出ている噂は聞いてたがな」と、心配そう です。

 職員も驚きました。福井勇気人さん(ナニワ診療所・事務主任)は「害は知っていたが、まさかこんな身近で。ほっとかれへん」。呼吸器の専門医・船越正信理事長が作った資料を、職員みんなで事前に読み合わせ、学習しました。

 問題が報道されてから、医療生協では直ちに対策委員会を立ち上げました。つばめ団地の自治会とも話し合い、訪問・相談活動を準備し、八月一日からは「アスベスト検診」も予定しました。

 訪問は、アスベスト関連職歴と居住歴、心配な症状は出ていないか、過去一年以内に胸部レントゲン検査を受けた か、などを聴き取り、検診の重要性を伝えることが主眼です。事前にチラシ三〇〇枚を配って主旨を知らせました。持って行く検診案内の『にじと健康』号外も 刷りあがりました。

第2の公害が襲うのか

 二七の訪問チームが組まれました。記者も笹山カリさん(医療生協支部長)と松本俊子さん(訪問看護STいくせ・看護師)の組に同行し、約一〇軒を訪ねました。

 「ご心配だと思います」と声をかけ、ていねいに聴き取りをすすめる松本さん。笹山さんが「診療所で検査できますからね…」と言葉を添えます。

 「うちの子は幼稚園からずっと工場の前を通ってたんですよ。咳が出ると心配で」。「何で今ごろね。私は大丈夫と思うが、病気になった人は気の毒やね」…、驚きと不安の混じった応答のあと、誰もが「暑いなか、ご苦労さん」と。

 「レントゲン検査は受けてないなあ」という人がほとんど。尼崎市の基本健診から削られたためか、復活させることは可能か…、と考えながら歩きました。

 家に上げてくれた七〇代の女性は、団地ができた時から住み続け、クボタの下請けで働いていたそうです。「私のは 石綿じゃない。ぜん息の発作で苦しくってね。公害認定は受けられなかった。娘も吸入器が手放せない」と切せつと訴えます。いまも大気汚染公害に悩まされて いる住人がいるのに、第二の公害が襲いかかるのか…。

 組合員さんが転居した後に住んでいた六〇代男性。「石綿のせいじゃないと思うが、二カ月も熱が下がらず血痰がでる」。しかし保険証が切れていました。「相談員をよこす」ことにしました。

「白いものが舞う中歩いた」と

 「相談会に行ってきた」という松田和子さん(仮名・七〇代)にお会いしました。独立した次男(四〇代)が中皮腫を発症し自宅療養中です。彼は高校を卒業後の数カ月、クボタでアルバイトをしたことがありました。

 「病気したことない丈夫な子でした。昨年一二月、急に胸が痛いって電話がきたんです。いま具合が悪くて抗ガン剤も注射できないときがある。辛くってたまらない」。松田さんは「昔、クボタの工場から白いものが舞い上がり、口を押さえて通ったものだ」とも。

 長男がクボタに掛け合うと、担当者は「何をしてほしいんですか」という返事。「金じゃない。命を救ってほし い」。松田さんは言葉を押し出すように「元の身体にして返してほしいんや」と叫びました。そして「母親の気持ちは他人には分からんやろうけど。ウチはたた かうから」とつぶやきました。

事態は深刻、情報も集まる

 一四八件の聴き取り調査のなかに「息子が肺の病気で死亡」「石綿を扱っていた。肺に影があるといわれている」な ど、フォローの必要な人が六人。一一件の相談も「肺がんで入院中」「息子が亡くなった」「妻が亡くなった。自分も心配」など、すぐに手だての要るケースば かりでした。

 まとめの報告会にはさまざま情報も。「子どものころ無意識に触っていた」「関西スレートの工場では廃材を池に捨てていた。それに使うトロッコに子どもが乗って遊んでいた」「ダイカスト工場では、アスベストの手袋を使っていた」など…。

 船越医師は「考えていた以上に事態は深刻。集めた情報を整理して、市との懇談会をもち、提言もしたい。つばめ団地では、学習会を兼ねて相談会をひらくことも必要と思う」と語りました。

(民医連新聞 第1363号 2005年9月5日)